「兵力デザイン2030」と海兵沿岸連隊の設置
今年2020年3月、バーガー海兵隊総司令官は、「兵力デザイン2030」という文書を出し、ここで非常にドラスティックな組織の再編案が示された。予算の増加が見込めない中で新たな役割に向けた能力を目指し、資源配分を大幅に見直すべく、2030年までに、海兵隊の兵力数を合計で12000人削減するというのである。その内訳は、陸上兵力としては、すべての戦車大隊の廃止、3つの歩兵大隊の廃止(24→21)、砲兵中隊を16個削減(21→5)など、航空兵力のうち264海兵中規模ティルトローター飛行隊などの廃止、などであった。そして、その代わりに、ロケット砲中隊を14増加することや、長距離ミサイルや無人システムの開発に力を注ぐとされた(Force Design 2030)。
海兵隊の再編計画で注目されたのは、新たに海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment: MLR)を設置するというものである。海兵沿岸連隊は、まさにEABOを行い、制海権や海洋拒否を達成するための部隊である。バーガー総司令官は「ウォールストリート・ジャーナル」に海兵沿岸連隊について次のように語っている。
もし軍事衝突が間近に迫れば、海兵沿岸連隊は小規模なチームに分かれ、揚陸艇で南シナ海や東シナ海に点在する小島に上陸する。そして、空中・海上・水面下で運用可能なセンサー付きドローンを装備し、より広い太平洋での戦闘に乗り出す前に中国の戦艦を標的にする。50~100人程度がチームを組み、中国艦隊に対艦ミサイルを発射する。報復攻撃をくぐり抜けるため、海兵隊は遠隔操縦できる次世代の水陸両用艇を駆使し、48~72時間ごとに島から島へと移動。他のチームは米戦艦からおとりの船を使った作戦を展開する。
バーガー総司令官は、このような海兵沿岸連隊について、「小規模で常に動き回り、しかも手を伸ばして接触する能力を持つ、分散された海軍遠征部隊に対抗するのは非常に難しいだろう」と語っている(『ウォールストリート・ジャーナル日本版』2020年3月25日)。
なお、海兵沿岸連隊の人員は1800人から2000人で、沿岸戦闘チーム(LCT)、沿岸対空大隊、沿岸兵站大隊という三つの主要な要素から構成される。
LCTは、歩兵大隊と長距離ミサイル中隊で構成され、長距離対艦射撃や前方での軍用機の武装や給油、情報収集・偵察などを行う。沿岸対空大隊は、航空偵察、早期警戒、制空権確保、前方での装備や給油能力の提供を担う。沿岸兵站大隊は、EABOを行うにあたり物資を供給したり、医療やメンテナンスを行ったりするという。
海兵沿岸連隊は、沖縄に司令部を置くⅢMEFに三つ設置されるが、まずはハワイに、そして次に日本とグアムに設置される予定である。ハワイに現在駐留する第3海兵連隊が、まず海兵沿岸連隊に再編され、様々な実験が行われる。その上で、現在、沖縄に駐留する第4海兵連隊(キャンプ・シュワブ)、第12海兵連隊(キャンプ・ハンセン)がそれぞれ海兵沿岸連隊に転換されるというのである(USNI News, June 4, 2020、Congressional Research Service, New US Marine Corps Force Design Initiative, June 5, 2020)。
なお、2012年に合意された在日米軍再編の見直しでは、第4海兵連隊は、沖縄からグアムに移転することになっている。グアムに設置される海兵沿岸連隊は、第4海兵連隊が沖縄からグアムに移転した後に再編されるものと思われる。一方、沖縄では、キャンプ・ハンセンの第12海兵連隊が海兵沿岸連隊に再編されると予想できる。
バーガー総司令官は、沖縄に海兵沿岸連隊が設置されたからといって、日本における駐留米軍の兵力数が増えるわけではないと述べている。なお、沖縄からグアムへの海兵隊移転は、沖縄での米軍基地への反発に対応したものであり、より分散化した兵力というバーガー総司令官のビジョンにも合致するものだという(Stars and Stripes, July 23, 2020)。海兵隊関係者によれば、海兵沿岸連隊は、どこかに設置されたとしても、有事だけでなく平時から分散してアジア各地を移動して回るということであった。平時から分散化・ローテーション化することにより、中国のミサイルの標的になりにくくするのが目的である。