安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を唱えた。その最たるものは憲法改正だろう。だが、衆参両院で与党が3分の2以上の議席を獲得した安倍政権下においてすら、改憲は進まなかった。ただでさえ国民の関心が高いとはいえない状況にある中、安倍政権のように改憲を旗頭に掲げる政権がこの先に出てくるだろうか。
第二次安倍政権発足後の靖国神社参拝は米政府からも批判を招き、首相参拝は途絶えた。これだけハードルが上がると、今後の首相にとっても参拝は難しいのではないか。戦後外交における難題の一つであった北方領土問題について、安倍首相は「3島」や「面積分割」といった近年の試みを放棄し、事実上の2島返還に要求を切り下げたものの、妥結の見通しは立たないままの退陣となった。
改憲、靖国、北方領土と、いずれも問題でも、安倍首相の本来の思いとは逆の形で「戦後レジーム」の争点に終止符が打たれる可能性がある。また、アベノミクスの主柱である大規模な金融緩和は常態化し、出口すら見いだせない。そして行き詰まりの代表格は辺野古新基地建設だろう。軟弱地盤の露呈によって、工期と建設費の膨張は不可避で、自民党内からさえ、計画完成の非現実性を指摘する声があがり始めていた。
ところが9月初旬の現時点で、安倍後継は官房長官の菅義偉氏になる気配が濃厚だという。総裁選出馬の記者会見で菅氏は、自らが下支えした安倍政治の継承を強調したが、上述のような行き詰まりは、果たして黒子役による「継承」で打開できるものなのか。
野党再結集の動きを冷ややかに見る空気も強いが、私は自民党の方が心配になる。なんといっても与党であり、現時点では日本の国家運営の担い手なのだから。7年以上に及ぶ政権の後継首相が官房長官とは、究極の消去法に見えてしまう。長きに及んだ「一強」と野党多弱の中、政策刷新の意欲も気力も、そして緊張感も自民党から失われてしまったのだろうか。
「安倍後」の日本政治に必要なのは、長期政権で生じたひずみを是正し、行き詰まりを打開する新たな政治である。その担い手が見えない現状はもどかしいが、現在の弛緩した状況が永続するほど、日本政治が衰退したとは思いたくない。
沖縄にはいつも、その時々の日本政治の「ひずみ」が凝縮された形で投影されてきた。2年後の2022年は沖縄の本土復帰50年という節目である。その頃には、日本政治が活力を取り戻した姿を目にしたいものである。
【本稿は、「安倍『最長政権』の功罪」(『毎日新聞』2019年11月15日)を大幅に改稿、加筆したものです】