安倍政権の終焉、そしてこれから

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憲政史上最長、そして首相としての連続在職期間でも7年8か月と、最長を記録した安倍晋三政権が「記録達成」の直後に幕を下ろした。第二次安倍政権の最大の功績は、政治に安定をもたらしたことだろう。旧民主党政権のみならず、小泉純一郎政権のあとの第一次安倍政権を含めて1年刻みの首相交代が繰り返され、国政は停滞した。コロナ禍で大幅に下落するまで、第二次安倍政権の支持率が底堅いものであった背景には、政治に安定を求める国民の意識があったといえよう。

 民主党が分裂して弱体化したことに加え、安倍氏にとって二度目の政権であったことも大きかった。安倍氏やその周辺には、第一次政権崩壊後に味わった惨めな体験が身に染みていた。権力への執着は、「政権投げ出し」も多かった近年の首相の中で抜きんでたものがあった。

 問題はその安定した政権基盤を用いて、日本が直面する課題に正面から取り組んだと言えるのかだ。アベノミクスの「三本の矢」を皮切りに、「地方創生」や「一億総活躍」など数々のキャッチフレーズは打ち出されたが、これだけの長期政権に見合った業績があるかといえば心許ない。

 日本のこれからを考えるには、「持ち時間」という観点が重要になるだろう。たとえば「2022年問題」である。2022年以降に団塊の世代が後期高齢者に達して社会保障費は急増する。一方で新卒人口は一気に縮小して人手不足が顕在化してくる。

財政難の中、高度成長期に整備されたインフラの老朽化も深刻になってくる。日本列島は地震活動期に入っており、さらなる大震災の発生も現実の危機と言える。日本にとって「国家存立の危機」は、対外関係よりも足元にあると言うべきだろう。

安倍首相は退任の記者会見で自らの政権のレガシーについて、その評価は歴史に委ねたいと語ったが、安定した政権基盤と7年以上に及ぶ「持ち時間」を一体何に費やしたのか。それが後年に安倍政権を評価する際のポイントになるだろう。

振り返ってみれば第二次安倍政権は、東日本大震災とコロナ禍という二つの「国難」に挟まれた、比較的恵まれた時期に政権を担当したと言える。その貴重な期間を何に費やしたのかという観点である。

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