【おすすめ三点】
■京大よ、還せ―琉球人遺骨は訴える(松島泰勝・山内小夜子編著、耕文社)
「琉球民族遺骨返還請求訴訟」の原告らが論点を解説
■沖縄の植民地的近代(松田ヒロ子著、世界思想社)
植民地支配下の台湾と沖縄を往復した人々の記録
■台湾、あるいは孤立無援の島の思想(呉叡人著、駒込武訳、みすず書房)
台湾の政治思想史を起点に東アジアの近代を展望
「人間みなチョボチョボや」
コロナ禍で職を失い、ホームレスになった女性から話を聞く機会があった。彼女にはパートナーの猫がいる。生活保護を申請した窓口で、「猫を捨ててから来い」と言われたときの悔しさを、彼女は口元を震わせて訴えた。
「なぜそんな酷いことが言えるのか」
走行中の電車や雑居ビルの店内、そして病院と、無差別の放火・殺傷事件が後を絶たない。他者を巻き込み自暴自棄に陥った彼らの背後には、孤立無援に陥ってもなお、「誰か」のために歯を食いしばって生きる何万もの人がいる。
「人間みなチョボチョボや」。これは作家の小田実さんの「人間平等感」の思想を象徴する言葉だという(共同通信の連載「鎌田慧の『忘れ得ぬ言葉』」)。格差や分断が一層広がり、人の生き方まで「勝ち負け」で判定する風潮が増している。小田さんの言葉に、折れそうな心を励まされるのは私だけではないだろう。
人間を上下の序列に押し込める現実。歴史的に「周縁化」されてきた側の尊厳回復をかけた裁判が京都で続いている。「琉球民族遺骨返還請求訴訟」だ。
京都帝国大学は戦前、沖縄県今帰仁村にある墓地などから「研究目的」で遺骨を収集した。この「百按司墓」には琉球王国時代の貴族の遺骨が納められ、祭祀も行われてきた。今なお遺骨の返還に応じない京都大学を相手取り、沖縄の人々が提訴に踏みきったのは2018年12月のことだ。
原告団長の松島泰勝は著書『京大よ、還せ』で、「学知の植民地主義」を背景要因の一つに挙げる。
「日本では天皇陵や古墳に収められた人骨調査はタブーとなっている。しかし、琉球では同じ王族の墓であっても研究者によって遺骨が持ち出せた。このような所業が可能であったのは、琉球が日本の植民地になったからであると考えられる」
松島は1903年に大阪で開かれた内国勧業博覧会に「学術人類館」が設置され、「アイヌ」「琉球」「台湾」などの人々が生身のまま「展示」された事件と絡め、こう指摘する。
「学術人類館において日本人は展示されなかった。なぜなら日本人が『人種』間序列の頂点にいることが前提とされ、その高見から『下位の人々』を眺め、観察し、分類し、統治することができるという帝国主義の心性を人類学者や多くの日本人が共有していたからであった」
そしてこう続ける。
「京大研究者は、琉球人、奄美人、アイヌ、中国人、朝鮮人、台湾原住民族等の遺骨を奪い、標本にし、研究者の間で『見せ物』にしてきた。今でも京大において『骨の学術人類館』が開かれている」
裁判は琉球・沖縄に対する植民地主義的な態度や意識は過去のものと言えるのか、という問いも突きつけている。