沖縄の海兵隊のグアム移転で起きた本当の事

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基地建設に伴い整備された自然保護区への道路

 一本でつながったグアムの舗装道路の一部は米軍基地の中にある。つまり、米軍だけが島のすべての道路を使える。また、米軍にとって不要な道路は整備されない。北部の米政府自然保護区につながる道路は両側にひたすら空軍基地のフェンスが続くが、数年前まで舗装されていない穴ぼこだらけの砂利道だった。

 自然保護区にはたとえば、グアム固有種の、チャモロ語でココ(英語でグアム・レイル)と呼ばれる鳥が生息している。沖縄固有種のヤンバルクイナと同じく、飛べない鳥で地上に巣をつくる。米軍が島外から持ち込んだ、ブラウン・ツリー・スネイクという蛇がココ鳥の卵を食べ、絶滅させかけたことがあった。絶滅危惧種を保護するアメリカの法律にもとづき、今はグアム政府がココ鳥保護プロジェクトを実施、捕獲したココ鳥を繁殖させている。

 ココ鳥などが住む自然保護区へと続く砂利道が舗装されることになったのは、自然保護区に隣接した実弾射撃場が建設されたからである。沖縄からグアムに移ってくる、米海兵隊の訓練場だ。

在沖海兵隊のグアム移転に高まった批判

 日米両政府は2006年、普天間米海兵隊飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古沿岸(名護市)への移設完了を条件に、在沖海兵隊の司令部要員約8000人とその家族約9000人のグアム移転に合意した。いわゆる在日米軍再編合意と呼ばれるものの一部である。2004年8月、普天間飛行場と隣り合う沖縄国際大学に、イラク戦争への出撃訓練中の米軍ヘリが墜落・炎上する事故が発生。沖縄県の抗議を受けた小泉純一郎内閣が、アメリカに対して「沖縄の負担軽減」を求めたことに伴う措置だ。

 チャモロ人の若者たちは、一方的に決められた日米合意に怒りの声を上げた。海兵隊用に新規接収予定の軍用地に、自然保護区内のチャモロ人の文化遺跡も含まれていたのだ。グアムの人口の約一割にも相当する海兵隊関係者が移り住めば、ただでさえ脆弱な島内の水道と電気がもたないという危惧も加わり、現地の批判は高まった。

 米議会も、移転費用の約6割を日本政府が負担するという、この日米合意を信用しなかった。2008年にリーマンショックが起きると、議会はバラク・オバマ政権(2009~16年)に対して、軍事予算の削減を求める。そして、在沖海兵隊のグアム移転で米側が負担する、軍用地の接収費用や水道などのインフラ整備費用が、実際には米軍の見積もりの倍以上になる恐れがあるとして、議会は関連予算を凍結した。さらに米環境保護庁も、海兵隊移転がグアムで引き起こす深刻な環境破壊を懸念し、計画の修正を要求した。

 ただ、議会や環境保護庁のこうした判断は、現地の民意がもたらした結果とはいいきれない。グアムは州ではない「未編入領土」であり、米大統領選挙の投票権や下院選出議員の議決権が認められておらず、政治的な配慮をする必要は必ずしもないからだ。あくまで予算管理や環境保護などの職務に沿ったものともいえる。

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