具志堅隆松さんと迎える6・23 (2) 沖縄島南部・未開発緑地帯の県有地化を

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当初、具志堅さんは小さな骨を次世代の人に収容して貰うことも考えたという。一方で、長年遺骨収集をしてきた中で、収集行為が戦争の痕跡をなくしているのではないか、との反省も抱いているという。遺骨を収容してしまえば、「ここに遺骨が何体あったよ」と全て過去形で語らねばならなくなるからだ。具志堅さんは今、DNA鑑定の対象になるような大きな遺骨は収容・鑑定する一方、現在の技術では鑑定の対象にならない微細な遺骨は現場安置し、戦争の惨禍を伝える証人になって欲しいと考えている。そうした微細な遺骨には日本兵や沖縄住民のみならず、朝鮮半島出身者や米兵のものも含まれ、見分けもつかない。そんな現状を保全することで、敵味方関係なく殺し殺されるという戦争の実相を伝えることが出来ると考えてのことだ。

ただ、今後の遺骨収集をどのように進めるか、平和学習のために戦跡をどう活用するか、といった問題も、戦跡が残されることを大前提としている。だからこそ、具志堅さんは未開発緑地帯を県有地化するのが先決だと訴えている。未開発緑地帯が鉱山開発業者を含む民間の地権者が所有する限り、その地権者が開発に前向きだと、戦跡の喪失を防ぐことが出来ない。一度鉱山や採石場が作られれば、具志堅さんのように遺骨収集や平和学習に取り組む人が戦跡や遺骨収集の現場に近づくことも不可能になる。将来の事業や運動に関する議論は、戦跡が守られることが決まった後にしても良い。まずは戦跡のある未開発緑地帯を県有地化し、民間業者の開発から守ることが最優先なのだ。

鉱山開発業者は、遺骨が含まれるのは表土だけで、商品として出荷される琉球石灰岩には遺骨は含まれないと説明する。しかし、具志堅さんは、「物理的に遺骨が混じらなければ良いのか」「多くの人の血を吸い込んだ土砂を埋め立てに使うことは、戦没者への畏敬の念を欠く」と反論する。沖縄戦跡は、戦没者への畏敬の念を示し、二度と戦争をしないと誓う場所だ。そこで採取した土砂を基地のために使うことは戦没者への裏切りであり、遺族が生きているときにそんなことをするのは、「人間のすることではない」という。

遺骨収集の残土に遺骨や遺品が混じっていることを見せる具志堅さん

防衛省は、土砂調達先はまだ確定していないとの言い逃れを続けているが、具志堅さんは計画を立てたこと自体が問題だと厳しく批判する。遺骨土砂問題の運動を始めた当初から、具志堅さんは一貫して「世の中に間違っているとはっきり言えることはそうないが、この問題については間違っていると断言できる。戦没者の遺骨を含む土砂で基地を作ろうとすることは、安全保障以前の人道上の問題だ」と訴えてきた。具志堅さんはこの日、防衛省は辺野古新基地建設の埋め立て土砂を沖縄島南部から調達する計画を撤回するだけでは不十分で、「岸田首相・防衛省は戦没者に対して謝罪しなければならない」と語気を強めた。翌日の慰霊の日に岸田首相が訪沖する関係で警備が強化され、具志堅さんの運動もテントが張れないなど相当制限されたが、首相は戦没者や沖縄戦遺族の謝罪をしないまま沖縄の地を踏むべきではないだろう。

具志堅さんは沖縄全体を、戦争を伝え、戦争を否定する平和の島にしたいという。具志堅さんにとっては、基地も「我々(ウチナーンチュ)が平和を希求しているのに基地を押しつけられ続ける」「戦後処理も終わっていないのに新たな戦争準備がされている」ことを伝える反面教材なのだ。具志堅さんは、「死者と共に生きるのがウチナーンチュ」であり、沖縄島南部の鉱山開発については、「経済的利益のために戦没者を忘却の彼方に売り飛ばしてはいけない」と力を込めて訴えた。

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