普天間「返還」条件に「緊急時に民間施設の使用」

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 中国への有事対応

 

では、「民間施設」は国内のどの空港になるのか。

防衛省は沖縄の負担軽減を強調しようと、普天間返還で代替施設は県内になるがヘリ使用想定で滑走路は短くなる上、「緊急時」の機能は「県外」で担うと説明してきた。だが、この「県外」は九州の空自基地2カ所の話で、「民間施設」選定では沖縄県内もありうるという。

この件に関する米側の姿勢を明かす文書が二つある。まず米政府の活動の費用対効果を監視する独立機関GAO(米政府監査院)の昨年の報告書だ。

それによると、米国防総省が14年に日本政府に求めて日米共同で「民間施設」の調査を開始。候補は12カ所挙がり、うち沖縄県内も1カ所あったという。GAOは、米軍が普天間なみの滑走路を使う「緊急時」の活動のため「国防総省が代わりの滑走路を沖縄で示せば問題解決を助ける」と指摘する。

もう一つは内部告発サイト・ウィキリークスが入手した米外交公電だ。日本関連の公電の提供を受けた朝日新聞は、11年にこう報じている。

09年に日本で民主党政権が発足した直後、日米の外務・防衛当局が普天間返還について協議した。鳩山内閣は代替施設の辺野古沖建設をやめ米軍嘉手納基地(沖縄県)に統合できないか探っていたが、協議でキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)はこう牽制した。

90年代は朝鮮半島や中国で有事作戦計画を実行するのに米軍嘉手納基地と那覇空港の滑走路があれば十分だったが、中国の劇的な軍事力増強により、有事に少なくとも滑走路3本へのアクセスが必要になった」

「滑走路3本」とは、嘉手納基地と那覇空港に加えもう一つの施設という意味のようだ。嘉手納含め飛行場が三つ必要なのに嘉手納に普天間を統合するなんて無理というわけだが、ここで重要なのは、米側が普天間返還を前提とした中国への有事対応に必要な飛行場として、すでに那覇空港を挙げていることだ。

  沖縄県は警戒している。昨年6月、当時の稲田朋美防衛相が「民間施設」について「米側と調整が整わなければ普天間は返還されない」と国会で答弁。辺野古沖の代替施設だけで済まないとの表明に、翁長知事は「大きな衝撃」と述べ、県は「那覇空港の米軍使用は決して認められない」と牽制した。

  GAOの報告書によれば日米共同調査による「民間施設」候補は沖縄県外にもある。ところが防衛省は、調査どころか「緊急時使用」の意味が日本有事からどこまで広がるのかすらノーコメント。「民間施設」が決まっても非公表もありうるという。

 確かに、米軍が日本で「緊急時に民間施設を使用」するのは相当危うい事態で、運用は極秘だ。しかも中国にらみとあれば首相訪中で関係改善を探る日本政府の口は重くなる。そんな機微な話が普天間返還という注目度の高いテーマで条件に明記されているわけだ。

  95年の沖縄県での米兵による少女暴行事件を機に、普天間返還が決まって二十数年。日本側の交渉経験者は、「飛行場は手放しても機能は守る」という米側の姿勢に「沖縄戦で米兵の血であがなった基地だ」という気概をひしと感じたという。

日本側はどうか。長年にわたる日米交渉で、沖縄で、日本で、国民が背負う米軍基地負担は全体として減っているのか。

そうした総論を「厳しさを増す安全保障環境」というかけ声でぼかし、国民生活に関わる「民間施設使用」をめぐる各論も語らないまま、安倍内閣は普天間問題を収束させるべく辺野古沖の代替施設建設へ突き進む。【本稿は『AERA2018115日号を転載しました】

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