「国際慣習法」というとらえがたいものを根拠に、「在日米軍に日本の法律は原則不適用」としてきた日本の裁判所が問われている。同様の説明をしてきた日本政府の根拠の空洞ぶりが露呈するなか、在日米軍基地訴訟で最大規模の原告約2万2千人を数える「嘉手納爆音訴訟」で、最高裁がいかなる判断を下すかが注目される。
在日米軍に国内法は原則不適用?
「在日米軍に日本の法律は原則適用されない。それは駐留する外国軍に受け入れ国の法律が適用されないという国際法があるからだ」という、日本の裁判所がこれまで示してきた考えを聞いて、どう思われるだろう。
その分野に日米何とか条約や国際何とか条約があるのかな、と思われるかもしれない。だが、実ははっきりしたものは、何もない。そして、はたしてそんな国際法が本当にあるのという論争が、ある訴訟でいま最高裁の判断を待つ。
嘉手納基地騒音差止等請求事件、いわゆる「嘉手納爆音訴訟」だ。極東最大級の米軍航空基地である嘉手納基地の周辺に住む沖縄県の住民らが、騒音被害への賠償と米軍機の飛行制限を求め、集団で起こしてきた。
1982年の最初の提訴以来、いま第三次訴訟が続き、最高裁に上告中だ。原告は約2万2千人と在日米軍基地をめぐる訴訟で最大規模。第1次、第2次の訴訟で賠償は一部認められたが飛行制限は認められず、今も被害が続く。
私も9年前の沖縄勤務当時に嘉手納の騒音を体験した。基地のそばの屋良地区で、かつて沖縄戦に学徒隊の看護要員として従軍した宮城巳知子さんに話を聞いていると、ジェット機の轟音が会話を遮った。「午後になるとだるくなる。頭がボーッとして」と話した宮城さんは2015年、89歳で亡くなった。
この訴訟は、住民らが訴えた相手によって二つに分かれる。日本政府を被告とする方では、先に述べた「そんな国際法が本当にあるのか」は争点ではない。判決は米軍機の飛行制限を認めてこなかったが、それは日本政府の支配が及ばない第三者(米国)の行為だからという理由になっている。
「そんな国際法が本当にあるのか」がいま第3次訴訟で最高裁の判断を待つのは、米政府を被告とする方だ。那覇地裁沖縄支部での一審、福岡高裁那覇支部での二審で、日本政府を訴えた方は実質的な審理に入り、判決が注目されたのに対し、米政府を訴えた方は門前払いになっており、あまり報じられていない。
だが、この訴訟は、日本国民の外国(在日米軍)による人権侵害の訴えを、日本の裁判所が「国際法があるから外国は訴えられない」として認めず、日本国民が「そんな国際法はない」と反論するという、異例で重々しい展開になっている。
しかも、最高裁の判断を前に、一、二審の判決の根拠を揺るがしかねない新しい動きが起きている。その動きを筆者は追ってきた。
国際法というと縁遠く思われるかもしれない。法律の話なのでそもそもややこしい。それでも、在日米軍に日本の法律がどこまで適用されるかという、日本の主権と国民の人権に関わる話なので、ぜひおつきあいいただきたい。