嘉手納爆音訴訟「国際法」で門前払い? ~対米訴訟で問われる最高裁判断

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根拠文書、外務省「確認できず」

 この日本政府の説明をめぐり、筆者の取材でさらに深刻な問題がつい最近明らかになった。

 在日米軍に日本の法律は原則として適用されないのは「一般国際法」によるという、遅くとも1972年から昨年に至る政府の国会答弁がどのような根拠と過程で決まったのかについて、外務省に情報公開法に基づく文書開示請求をしたところ、外務省は「確認できなかった」と説明したのだ。

 筆者の2018年の開示請求に対し、外務省はなぜか02年の野党議員からの質問主意書と政府の答弁書のみを示した。筆者は、その30年前から続く国会答弁に関する文書開示としては的外れだとして、総務省の情報公開・個人情報保護審査会に審査を求め、結論にあたる答申書が今年4月に出た。

 答申書によると、外務省は審査会に対し、2002年の文書のみを開示対象とした理由について、「一般国際法」を根拠とした見解を初めて閣議決定した文書だったためと説明した。「(筆者の)審査請求を受け、改めて執務室内の書庫、書架やパソコン上のファイルなどを探索したが、(02年の)文書の外に確認できなかった」とも述べたという。

 日本政府は、在日米軍に日本の法律は原則不適用として主権行使を狭めるのは「一般国際法」によるという説明を、根拠となる文書がないまま、「これまでご説明している通り」などと国会で答弁してきたことになる。

 ちなみに、日米地位協定が国会で承認された1960年の審議では、政府答弁で内閣法制局長官が「軍隊の行動に必要な範囲で日本の法令の適用が排除され、地位協定に書いてないものは日本の法令が大体適用される」と述べている。「一般国際法」を根拠に「不適用」と答弁するようになるのは、国会議事録を調べると前述のように1972年以降だ。

 1972年の沖縄返還にあたり、日本政府は米政府がこだわった米軍基地の自由使用に配慮して「一般国際法」を持ち出したのでは、と筆者は推測するが、外務省OBらの記憶は定かでない。ただ驚いたのは、ある外務事務次官経験者が政府答弁の変遷について、「国際法に詳しい内閣法制局長官は少ないし、国際法なんていい加減なもんだから」と語ったことだ。

 この言葉は外務省への私の取材と符合する。ある担当者は「政府の国際法解釈は外務省に任されており、その根拠は国会答弁でも言えない」と話した。国益がぶつかり合う国際社会では国際法解釈でも手の内をさらせないというわけだ。

 本音だろう。だが、それで在日米軍に対し日本の主権行使を狭めてきた国際法解釈を国会で追及されて火だるまになるや、長年続けてきた説明をぼかし、しかも「政府の考え方に変わりはない」と強弁しながら、根拠としてきた文書すらないと述べるというずさんさだ。

 そして、そんな日本政府が説明から削った「一般国際法」という国際慣習法を意味する言葉を、日本の裁判所は米政府への訴えを門前払いする根拠としてきたのだ。

 国際慣習法とは、明文の条約でなくても多くの国が国際的なルールと考え、それに沿って行動しているものだと前に述べたが、それを国際法の世界では「一般慣行と法的確信」と呼ぶ。国際慣習法に対するこうした日本政府のずさんさや、それを許すような判断を重ねる日本の裁判所の惰性によって、「一般慣行と法的確信」の一角が担われるとはとても思えない。

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