嘉手納爆音訴訟「国際法」で門前払い? ~対米訴訟で問われる最高裁判断

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米側に裁判所と真逆の見解

 そもそも国際法につきまとう問題として、国際慣習法をはっきりとらえることは難しい。世界の安定に向け国際慣習法について共通の理解を探っても、その世界は日々変化していく。一方で、明文の国際条約でさえ各国政府はそれぞれの国益をふまえて解釈し、違反同然の行為をすることもあり、明文化されていない国際慣習法の覚束なさはなおさらだ。

 そうした事情も反映して、一、二審で双方の主張は平行線をたどった。繰り返すが、この訴訟で双方というのは、訴えた日本国民と訴えられた米政府ではなく、日本国民と日本の裁判所という異例の構図になっている。

 「受け入れ国の同意に基づき同国に駐留する外国の軍隊の主権的な行為につき裁判権免除を与える」という国際慣習法が本当にあるのか。訴訟は実際には、「ない」という住民ら原告側の弁護団と、「ある」という日本の裁判官という法律家同士のぶつかり合いだ。

 国連国家免除条約、国際司法裁判所の判例、各国の法律や判例……。それらの解釈も含めて双方がそれぞれの根拠を積み上げた。一、二審の裁判官らは、日本で米政府を訴えるこの訴訟は不可能だと退け、原告側の弁護団は不当だと控訴、上告してきた。

 その膠着状態を揺るがし、最高裁の判断が問われる事態が、ここ数年に立て続けに起きている。

 まず、この問題について最近の米政府側の複数の文書で、外国軍は駐留先の国の法律に従うのが「一般国際法(国際慣習法)」だという見解が示されていることだ。

 例えば、米政府の諮問委員会(委員長・スローコム元国防次官)が国務省の求めで2015年にまとめた「米国の地位協定交渉への挑戦と戦略」。米国と米軍の駐留国とで結ぶ100以上の地位協定を検証した報告書には、「一般国際法上、その国にいる人はその国内法に従う。地位協定は駐留外国軍のために例外を設ける」とある。さらに注釈には「軍の派遣国が外国で排他的な裁判権を持つのは戦闘か占領のため」とまで書かれている。

 また、米陸軍が軍法会議の判事を育てる機関が編んだ2017年の「法運用ハンドブック」は、「一般国際法上、ある国の領域にいる全ての人への刑事裁判権はその国にある。地位協定がなければ、軍の派遣国の人員は受け入れ国の刑事裁判権に従う」とした上で、できるだけ有利な地位協定の下で「米国の人員の権利を最大限に守るのが国防総省の方針だ」と記す。

 ふたつの文書が重いのは、日米地位協定の相手方であり、しかも最も多くの外国に自国軍を駐留させる米政府側が、国際慣習法で外国軍は駐留先の国の裁判権の下に置かれるのが原則であり、だからこそ地位協定で米軍の立場を守るという見解を示しているからだ。特にふたつ目の米陸軍の文書は、米軍が事件・事故を起こした兵士の人権を守るため最もこだわる刑事裁判権についてのものだ。

 これは、第3次嘉手納爆音訴訟の一、二審判決で示された国際慣習法についての判断と真逆だ。上記の2015年の米政府諮問委報告書に照らせば、日本の裁判官らは、いま日本が米国による「戦闘か占領」の下にあるかのような判断をしたことにすらなってしまう。

 住民らは最高裁に上告の理由を説明する書面で、このふたつの文書と同様の見解を示す米国防総省の別の文書2点にも言及。外国軍に駐留先の国の法律は適用されないという国際慣習法を米政府側が認めていないのに、日本の裁判所がそれを認めて「相手方(米政府)の裁判権免除を認めることは暴挙以外の何物でもない」と主張している。

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