民意と政治の乖離をどう埋めるか~「辺野古」が日本社会に問うもの

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結局は「沖縄の声を聞く姿勢があるかどうか」

 

日本政府は米海兵隊の抑止力を強調し、辺野古移設を「唯一の選択肢」とするが、 それは本当なのか。北朝鮮との紛争でも尖閣諸島を巡る中国との争いでも、最初に投入されるのは空軍・海軍であって海兵隊ではない。しかも日米間で合意済みの米軍再編の実施後、沖縄に残る海兵隊の実戦部隊はわずか2千人となる。これでは大規模紛争には対応できない。この残る実戦部隊は、現在、年間の半年以上、東南アジアなどを訓練で回り、沖縄にはいない。こうした実態も加味し、新基地を辺野古に造らねばならない合理的理由は軍事的にみても存在しない、と提言書は結論付けた。

猿田代表はこう明かす。

「提言書の作成前、米国の政府関係者らと意見交換した際、『海兵隊の運用を細かく分析すれば沖縄県内に代替施設が必要だとわかる』と言われました。細かく分析し、新基地建設は不要との提言書を持参すると、今度は『もっと大きく全体を見なければ』と言い返されました」

結局は「沖縄の声を聞く姿勢があるかどうか」だと悟ったという猿田代表はこう強調する。

「政府にその姿勢さえあれば、辺野古以外の選択肢はいくらでもあります」

「辺野古」に反対しているのは沖縄だけではない。朝日新聞社が昨年12月15、16日に実施した全国世論調査で、政府が辺野古沿岸部に土砂の投入を進めることには60%が「反対」し、「賛成」は26%にとどまった。

他メディアの全国世論調査でも、辺野古の工事続行に否定的な回答が多数を占める。こうした民意はなぜ政治に反映されないのか。

専修大学の山田健太教授(言論法)はこう指摘する。

「『辺野古』に否定的な本土の民意の多くは、政府は強引すぎる、という政治手法に対する反対表明にすぎないのでは」

沖縄の米軍基地面積の7割を占める米海兵隊は1950年代に日本本土から米軍統治下の沖縄に移駐された。普天間飛行場の沖縄県内への移設に固執するのは、軍事的・地理的要因ではなく、日本政府の要請に基づく政治的要因である、と米国の元政府高官らが繰り返し発言している。

沖縄で根強い「辺野古ノー」の民意は、こうした歴史的経緯や政治的要因を念頭に沖縄に米軍基地が集中する本質と向き合い、「辺野古が唯一」と繰り返す政府に対して「納得のいく説明がない」と考える人々が支えている。一方、本土では「進め方が強引すぎるかも」という感情的なイメージに基づく、「ぼやっとした反対」が主だと山田教授は見る。

本土と沖縄の間に横たわる「反対」の温度差を克服する上で不可欠なのはメディアの役割だ。人権や地方自治、民主主義といった観点で見れば、「辺野古」はさまざまな社会問題と根源的に通じている。

「沖縄で起きている実態の背景や歴史的経緯をきちんと報道することは日本社会の立て直しに直結します」(山田教授)

民意と政治の乖離をどう埋めるか。「辺野古」は分断を乗り越え、いかにして「ポジティブにつながる」かが問われる社会の試金石でもある。

【本稿は『AERA2019121日号を一部加筆の上、転載しました】

 

■請願サイトの署名を呼び掛けた主なタレント・文化人【敬称略】

  • ブライアン・メイ(QUEENのギタリスト)

<「緊急!!! 緊急!!! アメリカの基地拡張のために脅かされている美しいサンゴ礁とかけがえのない生態系を守るために、この嘆願書に署名してほしい>(ツイッター)

<沖縄のかけがえのないサンゴ礁の破壊を止めるための嘆願書に署名する最後のチャンス>(インスタグラム)

  • ローラ(モデル・タレント)

<みんなで沖縄をまもろう!たくさんの人のサインが必要なんだ><美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの>(インスタグラム)

  • ラサール石井(タレント)

<ちょっとちょっとおかしいよ。辺野古工事に反対することは反社会的ではないですよ。正当な市民運動でしょ。考え方も言葉の使い方も間違えてるよ。国の方針でも間違えている事は正していく。それも暴力ではなく署名ですよ>(ツイッター)

  • 村本大輔(タレント)

<「ローラが辺野古へ政治的な発言」次は「ローラに批判殺到」次は「ローラは前から社会問題に発言してる」次は「芸能人の政治的発言はありかなしか」本質を伝える腕のないメディアと耳障りのいい話題にしか耳を貸せない大衆のせいで(中略)沖縄を置き去りにし「ローラとは芸能人とは」にすり替わる>(ツイッター)

  • うじきつよし(ミュージシャン)

<かけがえなき沖縄の自然と人々を踏みにじる蛮行を、みんなでストップだ!!>(ツイッター)

  • 岸政彦(社会学者)

<本当に止めることができるかどうかわからないけど、この署名が10万人分集まったら、ホワイトハウスに届くそうです。(中略)だれでも簡単にできます。みんなの声を届けよう>(ツイッター)

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