沖縄県知事は県民のお父さん
全国47都道府県の首長は、言うまでもなく知事だ。しかしその中でも、沖縄の知事はどこか違う意味合いを含んでいると、取材で訪れるたび感じていた。政治家という枠を超えた濃密な感情を、多くの県民が抱いているように思えたのだ。
だからなのだろう。3年前、県知事選を戦っていた翁長雄志氏が「沖縄の知事はお父さん」と私に語った言葉を聞いて、妙に納得したものだ。そうなのかもしれない。沖縄では、知事は県民の父親のような存在であることを求められるのかもしれない。
日本とアメリカに支配され、基地が置かれ続けている歴史を考えると、親のような気持ちでやらないとつとまらないと、翁長氏はつぶやくように言った。そしてこう続けた。「みんな思いもそれぞれで、地域性もあって、個人的な戦争とのかかわりもいろいろ差がありますから、やっぱり県民に対して思いやりのある言葉を使わなければいけないんですよ」
そうした意味で、仲井眞弘多前知事が口にした「いい正月になる」という言葉は、県民の心がわかっていないと、翁長氏は言う。辺野古の埋め立て承認につながった安倍晋三首相との会談のあと、当時の仲井眞知事が記者たちに語った言葉だ。
「知事は県民の心のヒダがわかるお父さんでなければいけないんです」
翁長氏は自分に言い聞かせるように繰り返した。
その後、当選して知事になった翁長氏の言葉を耳にするたび、私はこの時のやりとりを思い出すことになった。
例えば2015年4月、菅義偉官房長官と初めて会談した席での翁長知事の言葉。「辺野古が唯一の解決策」と繰り返す菅長官の姿勢は、米軍施政下時代に「自治は神話である」と言い放ったキャラウェイ高等弁務官を思い出させると発言したのだ。キャラウェイという名前は、沖縄が日本から切り離されて米軍の施政下に置かれた27年間の象徴と言ってもいいだろう。翁長氏はその名前を出すことで、県民が背負ってきたものの長さと重さを一瞬にして喚起させたのだ。私の知るウチナーンチュは、この言葉を聞いて涙が出たと話していた。