沖縄のもう一つの未来、岩国

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搭乗率に見合わぬ空港のインフラ

今年のエイプリルフールに、出版社の吉川弘文館は次のツイートを投降した。「弊社はこの度『吉川』の本拠であります山口県岩国市に本社を移転いたします。廃藩置県以降、約150年ぶりの里帰りとなります。社屋は岩国城天守閣に置き、1階が営業部となります。社員のロープウェイ利用は禁止ですが、お客様はどうぞご利用ください(有料です)」。関ヶ原の戦いの後で岩国藩をひらいた吉川家と、出版社名をひっかけた冗談で、東京に本社をおく吉川弘文館は、岩国とは縁もゆかりもない。

山口県東部に位置し、広島に隣接する岩国市は、江戸時代には、錦帯橋の架橋や岩国半紙の専売で栄え、明治以降は、瀬戸内海沿いに建てられた工場地帯によって、産業都市として発展した。朝鮮戦争休戦協定が成立した3年後の1956年、韓国に駐留する米第一海兵師団の航空団のみが、旧日本海軍の岩国飛行場へと移駐してくると、岩国はしだいに基地の街としての性格を強める。

岩国飛行場は1957年から、第一海兵航空団と海上自衛隊が共同で使用してきた。そして2012年からは、民間空港としても使われる軍民共同の施設となり、岩国錦帯橋空港と名づけられた。岩国駅から車で10分かからない場所にあり、ANAが、岩国―東京間を一日4往復8便就航させている。また、岩国―沖縄間も一日1往復2便ある。

実際のところ、岩国空港を離発着するANA便の搭乗率は7割に満たない。岩国―沖縄線はほぼ海兵隊関係者しか利用せず、一度廃線の憂き目にあっている。搭乗率向上のため、岩国市役所が、岩国―沖縄線を利用する市民に運賃の補助をしている。効果はかんばしくない。

搭乗率が高くないにもかかわらず、錦帯橋空港には平面駐車場に加え、2017年に新たな立体駐車場が建設された。駐車料金が無料で、すぐ満車になるためだ。以前は無期限に無料だったが、立体駐車場完成後は5日間無料に変わった。満車状態は解消されず、年末年始には臨時駐車場も設けられる。また2019年3月、ターミナルビルの別館が増築され、広々としたセルフサービス形式の喫茶コーナーと、二つの会議室が設けられた。

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