極東最大級の基地を支える補助金
駐車場やターミナルビルの増築費用や、駐車料金の補助は、すべて岩国市が負担している。その財源は、米軍再編交付金だ。日米両政府は2005年、在日米軍再編計画の中間報告で、米海軍が使用する厚木飛行場(神奈川県)から、空母艦載機約60機を岩国飛行場に移駐させることを決定。さらに翌年、米海兵隊普天間飛行場(沖縄県)から、KC130空中給油機を岩国飛行場に移駐させることも正式に決まった。
その見返りとして、10年間で140~150億円の再編交付金が、地元自治体に支給されることになる。岩国錦帯橋空港の開港も、厚木の艦載機移駐とのいわば取引の結果だ。地元の商工会議所がかねてから要望していた民間空港は、岩国市に負担を集中させる形での在日米軍再編によって実現した。
艦載機移駐に伴い、米軍および軍属、その家族約3800人も岩国に移住。2018年3月に艦載機移駐が完了すると、岩国市に住む米軍関係者の数は1万人を超えた。市人口の1割に迫る数だ。
それに合わせて、2018年7月には、愛宕町に総合運動施設「愛宕スポーツコンプレックス」が全面オープンした。夜間も利用可能な照明つきの、「絆スタジアム」と命名された野球場、2面のソフトボール場、陸上競技場。さらに4面のテニスコート、2面のサンドバレーボールコート、2面の屋外バスケットボールコート。加えて、12か所のバーベキュー施設。日米地位協定にもとづいて日本側が費用を全面負担した、米軍関係者のための娯楽施設だが、岩国市民もお金を払えば利用できる。日本国内では、日米軍民共用の娯楽施設は、ほかに「池子の森自然公園」(神奈川県)しかない。
つぶされた愛宕山と市民住宅開発事業
愛宕スポーツコンプレックスが建設された場所は、もともと山だった。1996年に日米両政府が開催した沖縄特別行動委員会(SACO)で、普天間飛行場に所属する空中給油機KC130の、岩国飛行場への移駐が最初に決まる。それとひきかえに、岩国市にはSACO交付金と呼ばれる補助金が支払われることになった。岩国市は、SACO交付金で愛宕山の住宅開発事業を開始。愛宕山の上半分を削って平地にし、市民向けの住宅街を建設する計画だ。削られた山の土砂は、市民住宅開発と同時に始まった、岩国飛行場の滑走路を市街地・工場群から遠い沖合に移設する事業で、海を埋め立てるのに使われた。
ところが、岩国市が10年かけて進めた市民住宅開発事業は、在日米軍再編の最終合意が固まる2006年に突然、山口県から廃止通告を受ける。岩国市民のニーズに合っておらず、赤字が見込まれるという理由で、開発中の一帯を米軍用の住宅用地として、防衛省に売却するよう言われたのだ。
岩国飛行場から愛宕山までは一本道だが、片側1車線の道路は朝晩ひどい渋滞になる。米軍関係者の多くは、渋滞で基地との往復に時間がかかることを嫌がって、完成した愛宕山の米軍用住宅に住みたがらないという。
遠くから見ると、上半分が切り取られた愛宕山の風貌は異様である。近くまで行くと、広大な米軍の娯楽施設が一面に広がる光景はもっと異様だ。その隣には、岩国市消防センターや岩国医療センターもある。現在、両センターの間に複合遊具施設を建設する工事が進んでいる。防災備蓄倉庫を備え、災害時には物資輸送拠点となる予定だ。