ナショナリズム 沖縄と日本【下】~昭和天皇と瀬長

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「天皇メッセージ」

「天皇の沖縄メッセージ」。戦争に敗れた日本が連合国軍総司令部(GHQ)の占領下にあった1947年9月、昭和天皇が主権回復を探りつつ沖縄では米国の占領継続を望むという考えが、宮内庁御用掛の寺崎英成からGHQに伝えられていた、というものだ。

 米側の公文書をもとに79年に明かされたこの「天皇メッセージ」については、その意図や影響をめぐり今も評価が分かれる。

 それは、この出来事があった47年9月が、近代国家・日本の行方を左右する動乱のさなかだったということもある。戦前は統治者として「国体」の中心にあった昭和天皇が、GHQ占領下でできた新憲法の施行により「日本国と日本国民統合の象徴」となった直後だった。

 だが、昭和天皇が72年の沖縄返還にあたっては「さきの戦争中および戦後を通じ、沖縄県民の受けた大きな犠牲をいたみ、長い間の労苦を心からねぎらう」と述べ、その思いを抱えながら世を去って30年。遺志を平成に継いだ天皇陛下(いまの上皇さま)も今年退位した。

 時は着実に過ぎていく。風化せぬよう、「天皇メッセージ」に関する事実を時系列で整理しておく。丸カッコ内は私が注記した。

◇1947年

・9月19日 寺崎が昭和天皇に拝謁後、「シーボルト(GHQ外交局長)に会ふ 沖縄の話 元帥(GHQ最高司令官マッカーサー)に今日話すべしと云ふ 余の意見を聞けり」(寺崎英成・御用掛日記、1991年、文芸春秋)

・9月20日 シーボルトから同日付でマッカーサーに宛てたメモ(天皇メッセージ)より以下に抜粋、概訳。

 「寺崎は、米国による沖縄の軍事占領継続を天皇が望んでいると語った。天皇の考えでは、そうした占領は米国の利益、日本への保護となる。日本の人々はロシアの脅威だけでなく、台頭する右翼や左翼が起こす事件にロシアが乗じ日本の内政に介入することを恐れているので、(米国の沖縄占領継続は)広く受け入れられる。沖縄の占領は、日本の主権を残しつつ、20~25年かそれ以上の長期貸与という擬制をとるべきだ、と天皇は思っている」

・9月22日 シーボルトから同日付で米国務長官マーシャルに宛て、上記のマッカーサー宛てメモのコピーを送る。

◇1979年

・4月 上記の「天皇メッセージ」メモを進藤栄一・筑波大助教授が月刊誌「世界」(岩波書店)に寄せた論文「分割された領土」で紹介し、反響が広がる。

・4月19日 宮内庁侍従長の入江相政が昭和天皇から呼ばれ、「『沖縄をアメリカに占領されることをお望みだった』といふ件の追加の仰せ。(日本の敗戦後、中華民国の)蔣介石が占領に加はらなかったので、ソ連も入らず、ドイツや朝鮮のような分裂国家にならずに済んだ。同時にアメリカが占領して守つてくれなければ、沖縄のみならず日本全土もどうなつたかもしれぬとの仰せ」(入江相政日記、1991年、朝日新聞社)

瀬長の激しい追及

1979年、瀬長は沖縄選出の衆院議員となって10年目だった。復帰後も米軍基地撤廃による「民族の解放」を求めた瀬長は、国会で政府に「天皇メッセージ」の確認を迫る。「世界」の進藤論文に赤線を何本も引いて臨んだ4月27日の質問は、激しかった。

 「当時はすでに憲法が施行されておる。この問題は国家主権と国民主権の問題なんです。(沖縄の)百万人、日本国民なんです。実に売国行為である」

 「あした、4・28という民族屈辱の日、(52年に)対日平和条約が発効して(主権を回復した日本に沖縄が)断ち切られた日なんです。その苦しみの根源がここにあった」

 そのころ国会では、「元号法案」が審議中だった。明治、大正、昭和と継がれてきた一世一元の元号を、「広く国民の間に定着し、大多数の国民が存続を望んでいる」(首相の大平正芳)として法制化しようという世相だった。

 那覇市に住む瀬長の次女・内村千尋さん(74)の手元にある遺品の議員手帳には、「5月12日、天皇を批判したので脅迫状が来た。差出人は大日本軍団青年部。対策をとらないと」と書かれているという。

 それでも瀬長は、5月31日の国会で改めて「沖縄の長期にわたる軍事占領支配が天皇の提言に基づいて行われたという歴史の証言である」と訴えた。答弁に立った外相の園田直は、「調査の結果は、そういう事実や記録は全然ない。私個人で判断しても、そういうことに天皇が自らの意見を発表されるようなことは絶対にあり得ない」と反論した。

 先の「入江相政日記」には、5月2日に昭和天皇に宮内庁長官が拝謁し、「瀬長議員質問の例の寺崎・シーボルトの件につき申し上げる」とある。瀬長の追及ぶりは伝わっていたようだ。

 そして、宮内庁は2017年に編集した「昭和天皇実録」で、「天皇メッセージ」について上記の1947年9月の経緯をほぼ確認している。

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