米海兵隊の戦略と実態のかい離が沖縄にもたらすもの【上】

この記事の執筆者

「マルチ・ドメイン・バトル」構想

ドナルド・トランプ米政権が発足した、2017年1月。陸軍と海兵隊は、米軍の新たな対中軍事戦略を考案する。

バラク・オバマ政権期の対中戦略では、空軍と海軍が中心的役割を担っていた。これに対して、陸軍・海兵隊が巻き返しを図った新戦略では、陸・海・空・海兵隊の統合作戦が唱えられる。四軍が通信ネットワークを駆使、相互の戦況を確認しながら、各自の持ち場で、同時に敵への多次元攻撃を展開するという内容で、マルチ・ドメイン・バトルと呼ばれる(2018年に、マルチ・ドメイン・オペレーションへと改称)。

通信ネットワークによる四軍の連携を、実現するための課題は、主に二つ。一つは、通信ネットワークを備えた、最新の共通装備の導入。その最たるものが、F35統合攻撃戦闘機の購入だ。

もう一つは、実戦に備えた、四軍連携の訓練である。海兵隊岩国飛行場(山口県)、海軍佐世保基地(長崎県)、空軍嘉手納基地(沖縄県)、海兵隊普天間飛行場(沖縄県)の各部隊は現在、有事を想定して、訓練での相互の行き来を活発化させている。

佐世保基地に配備されている、海軍強襲揚陸艦「ワスプ」に代わり、2019年中に配備予定の、大型強襲揚陸艦「アメリカ」は、ワスプよりも航空機用の格納庫部分が広い。岩国飛行場所属の、F35BやMV22「オスプレイ」輸送機を艦載し、在沖米軍との一体的な運用を行う。

最新装備の導入が遅れる海兵隊

だが、海兵隊は、マルチ・ドメイン・バトル構想を主導しながらも、F35などの最新装備の導入に、出遅れている。

2019会計年度の時点で、海兵隊が装備の近代化に割く予算は、全体のわずか14%。陸軍21%、海軍37%、空軍47%と比較すると、その低さがよく分かる。その背景には、オバマ前政権による軍事予算削減が、現トランプ政権になっても、尾を引いているという問題がある。

オバマ政権が発足した2009年。9・11テロ以来、対テロ戦争に傾注してきた、米国の財政赤字金額は、史上最大の1兆4127億ドルを記録した。そこで、オバマ政権は、国防予算の効率化を断行。海兵隊は、遠征戦闘車両の開発中止、F35B開発の2年間経過観察、将官を含めた兵力2万人削減などに直面する。

さらに、2013年3月1日、オバマ政権は、1兆2000億ドル規模の財政支出を、約10年間で一律に削減するという、歳出強制削減措置を発動。その半分は、軍事予算が対象とされる。トランプ政権に代わり、2017年12月に軍事予算が増額されるまで、米国の軍事費は毎年削減されていった。

このため、アフガニスタンやイラク、シリアで、対テロ戦争に従事する海兵隊は、過酷な戦闘と気候で摩耗する装備を、更新できないまま、使い続けてきた。

この記事の執筆者