日米地位協定の本質とは?―米軍の「特権」批判では見えぬ解決策―

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米軍への「好意的配慮」という難題

NATO地位協定と日米地位協定では、刑事裁判権について、基地内外にかかわらず事故や犯罪の加害者が米兵・軍属で、①米国とその財産に対する犯罪、②被害者が米兵・軍属の場合、③軍務遂行中に行われた犯罪の場合、米側に一次裁判権を認めている。また、それ以外の場合には、米軍を受け入れている国に一次裁判権を認めている。実際には、米軍側が「加害者は軍務遂行中だった」と主張した場合、受け入れ国は大抵それを認めざるをえない。

また、裁判権を、求める相手国からの要請に「好意的配慮」を示せば、自国の裁判権を放棄して相手国に譲ることが可能だとされている。米軍はこれまで世界中のほぼすべての米兵犯罪について、受け入れ国に裁判権放棄の圧力をかけてきた。そのため、米兵・軍属は米軍の軍法裁判で裁かれ、ほぼ無罪となることが多い。

さらにオランダやギリシャ、西ドイツのように、米国との個別協定であらかじめ、一次裁判権を一括放棄するよう取り決めている場合もある。ただし、西ドイツはドイツ統一後、米兵・軍属が「重大犯罪」を起こした場合、ドイツ側が裁判権を放棄しなくてよいように協定を改定した。

「好意的配慮」の規定は、1953年に米国と西ヨーロッパ諸国がNATO地位協定を結ぶ際、米議会上院の要求に配慮して生まれた。一部の共和党議員が、米兵・軍属とその家族に対する裁判権を、米国のみに帰するべきだと要求。これは否決されたが、NATO加盟国に裁判権を放棄させるように、米軍・外交当局が最大限の努力をするという条件つきで、NATO地位協定は米議会で批准される。

日本も「NATO並み」を目指して、日米地位協定の前身である日米行政協定の刑事裁判権規定の改正を要求。だが、同じく1953年に実現した改正は、①「重大犯罪」以外では米軍関係者を起訴しない、②被疑者の身柄を米軍が確保した状態で最大20日以内に起訴を判断、が条件とされた。日本側は相当抵抗したが、米側に押し切られた。毎日新聞の記事はなぜか、前者は1953年、後者は1972年からあるかのように記述。しかも、日本から提案したように書いているが、最低限勉強してほしい。

報道の意義が問われる

問題は、司法判断ではなく政治判断にある。また、現状を変えるには米国との外交交渉しかない。現状を変える力を持たない捜査関係者の苦悩に加えて、外交上の責任や権限のある官僚や政治家への取材も、大手新聞社なら可能なはずだろう。実際、同じ毎日新聞の別の連載「日米安保を問う:条約改定60年」は、政治部や社会部、国際報道を担当する部署が横断的に取材している。

とはいえ、米国は1953年から現在に至るまで、世界中の駐留国で米軍関係者の裁判権を死守しようと努めてきた。このような現実を前に、ただ米軍の「厚遇」「優遇」を批判し、日本の司法の独立を主張しても、現状を変える突破口にはなりえないだろう。

本気で日本の司法権の独立を守り、被害者救済を考えるのであれば、米軍の日本撤退まで見すえた議論が必要になる。これは、米国の外交をつかさどる国務省が、2015年に発表した「地位協定に関する報告書」で書いていることだ。米軍が駐留している国の主権を侵害しており、不要な存在だとその国の国民が考えれば、米国は地位交渉についての交渉で優位に立てなくなると。

在日米軍の駐留の是非を国民的議論にして初めて、米軍の「特権」への解決策の糸口が見えてくるのであり、怒りのマグマだけでは現実は変わらない。本当に被害者の立場に寄り添うのであれば、そこまでの覚悟をもって報道してほしい。

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