住民保護なしに進む自衛隊の南西配備と日米地位協定

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米軍の沖縄島嶼駐留の可能性

このように陸自の南西配備は、有事の住民保護への手当てが欠落したまま進められている。にもかかわらず、海兵沿岸連隊の創設にからんで、自衛隊とともに、米軍が訓練で南西諸島に駐留する可能性も出てきた。すでに、奄美大島では2019年9月、日米共同訓練が初めて実施されている。

日米地位協定第2条第4項bは、自治体や住民の意思に関係なく、米軍が自衛隊施設を利用することを認めている。ただし、米軍の自衛隊施設利用は、日米両国の実務担当者が話し合う日米合同委員会での合意が必要だ。

また、在沖米軍も、その実現が「政治的に難しい」ことは認識している。筆者がヒアリングしたところ、在沖海兵隊は、沖縄県内の自衛隊施設で自衛隊と共同訓練したいという希望を、以前から強く持っているが、住民の反発が強く「現在のところは」実現可能性が低いと見ている。

しかし、米軍は、民間空港・港を自由に使用できる。日米地位協定第5条は、米軍機に日本国内の民間空港の使用を許可している。2014~2018年の5年間で、米軍機が日本国内の民間空港を使用した回数は1605回。全国の89の民間空港のうち40カ所に着陸している。奄美空港にも219回、米軍機が着陸している。

宮古島市の下地島空港は、米海兵隊普天間飛行場の約2800メートルの滑走路よりも長い、3000メートルの滑走路を有しており、自衛隊や米軍が有事の使用を希望しているといわれてきた。沖縄県は下地島空港について、1971年の「屋良覚書」にもとづき軍事利用を禁止している。しかし、2019年9月に沖縄県が宮古島市で実施した総合防災訓練には、陸海空自衛隊から計約500人が参加し、航空自衛隊のC2輸送機が初めて下地島空港を使用した。

台湾有事の拠点となる沖縄島嶼

同じく日米地位協定第5条では、米軍艦船による国内の港の使用も認めている。日米地位協定の本文には、米軍は入港の際、日本側への事前通告を行わねばならないと書かれている。しかし、同条に関する合意議事録では、米軍が安全上必要だと判断すれば通告しなくとも入港できるとある。問題は、通告の判断が米軍に委ねられているように、米軍が港湾管理者の許可なく、民間の港へ自由に入港できることだ。

米軍は2007年に沖縄県与那国町の祖納港、2009年に石垣市の石垣港、2010年に宮古島市の平良港に入港。「乗組員の休養と友好親善」を理由とした石垣港入港時には、石垣市がターミナルの屋上に掲げた横断幕で入港反対の意思を示し、交流を拒否したにもかかわらず、住民の抗議の声の中を米海軍掃海艦が寄港した。

米軍の沖縄島嶼寄港の意図については、当時沖縄総領事だったケビン・メアの考えが、ウィキリークスによって明らかになっている。メアは、「軍拡を進める中国海軍と尖閣諸島で対峙した場合、一番近い港が与那国島、石垣島、宮古島になる。南西諸島の島々を対中国軍への戦略拠点として利用しないと有事に対処できない」と述べている。

注意したいのは、日米地位協定は平時の取り決めであり、有事に米軍機・船舶が民間空港・港を使用するのは、両国政府の事前協議の対象となる。事前協議とは、安約改定の際に創設された制度で、在日米軍の戦闘作戦行動には、事前に日本政府の了解が必要だ。

とはいえ、令和2年度版防衛白書は、昨年度版にひきつづき、中国が「安全保障上の強い懸念」であり、「強い関心をもって注視していく必要がある」と記述。安倍晋三首相も長年、中国の脅威を強調してきた。日本政府も、沖縄島嶼における日米共同訓練や、有事の米軍の民間空港・港使用を推進する側にある。

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