住民保護なしに進む自衛隊の南西配備と日米地位協定

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海兵沿岸連隊の創設

2020年7月25日付の時事通信記事によれば、米海兵隊トップのデイビッド・バーガー総司令官は23日、同社の電話取材に対し、2027年までに対艦ミサイルなどを装備した「海兵沿岸連隊」を3連隊創設、沖縄とグアム、ハワイに配置する考えを明らかにした。バーガー総司令官は3月、海兵隊の今後10年間の方針を示した「兵力デザイン2030」で、戦力構成を抜本的に見直し、対中国抑止に傾注する姿勢を示していた。

海兵沿岸連隊の創設は、現在ある海兵隊の組織を再編する形となるので、沖縄に駐留する海兵隊の総兵力数が増えることはないという。

海兵沿岸連隊は1800~2000人規模とみられ、長距離対艦ミサイルや対空ミサイルを装備する。有事には島しょに分散展開し、陸上から中国軍艦隊を攻撃して中国軍の活動を阻害。米海軍による制海権確保を支援するのが、主な任務となる。

バーガー総司令官は、自衛隊が水陸両用車や輸送機オスプレイ、最新鋭ステルス戦闘機F35など相互運用性のある装備を保有しており、「(海兵隊と)完全に補完し合う関係」にあると強調。南西諸島での自衛隊との合同演習にも意欲を見せた。

陸上自衛隊の南西配備

南西諸島では現在、陸上自衛隊(陸自)配備計画が進行中だ。自衛隊の南西配備計画は、民主党政権下の2010年に改定された、「防衛計画の大綱」(防衛大綱)で登場した。尖閣諸島をめぐる日中間の対立が高まったのを機に、「自衛隊配備の空白地域」である南西諸島への配備の必要性が打ち出され、2013年改定の防衛大綱に引き継がれる。

そして、2016年3月から与那国島に約160名の陸自沿岸監視隊が駐屯。また、2016年10月から奄美大島に約550名、2020年4月から宮古島に約700名の陸自警備部隊・地対艦空誘導弾部隊が駐屯。その次が、石垣島に奄美・宮古と同じ陸自部隊約500〜600名を駐屯させる計画で、2019年3月から駐屯地の建設工事が始まっている。

陸自の南西配備は、その賛否をめぐって各島の住民同士の対立を招いている。その根源には、有事に戦場となる沖縄島嶼の住民は守られるのか、という拭いがたい不信がある。

国民保護法では、有事に国民を避難させるのは自衛隊ではなく、自治体の役割となっている。周囲を海に囲まれた小さな自治体に、その能力や手段があるのか。そもそも、危機管理学が専門の中林啓修氏の試算によれば、宮古・八重山諸島の住民と、観光客などの滞在者を民間航空機・船舶で避難させるには、約3週間かかるという。平時ならまだしも、予測不能な有事に、事前に約3週間もの余裕をもって、民間人が避難することは可能なのか。

※参考記事:中林啓修「南西諸島での国民保護が問いかけてくるもの――安全保障政策で「何」を守るのか」『シノドス』2020年6月18日掲載

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