ここだけは押さえてほしい点、ここだけは理解してほしい点
一審判決翌日の琉球新報の識者談話で長野県立大の野口氏が「市自治基本条例に基づき住民投票を請求する際の手続きが定められていなかったことが訴訟が却下された理由だ」と述べるなど、未だに多くの方が誤解をしている。判決は、「住民投票を請求する際の手続き」のことは一 切指摘していない。しかも、自治基本条例現行28条(「以下単に「自治基本条例28条」という。」註1)の住民投票の請求方法は、地方自治法74条の直接請求の方式で行うとされているのである。
石垣市自治基本条例 第28条
「【第1項】市民のうち本市において選挙権を有する者は、市政に係る重要事項について、その総数の4分の1以上の者の連署をもって、その代表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる。」
「【第4項】市長は、第1項の規定による請求があったときは、所定の手続を経て、住民投票を実施しなければならない。」
地方自治法 第74条
「普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者は、政令で定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例の制定又は改廃の請求をすることができる。」
石垣市の自治基本条例は2010年(平成22年)4月1日に施行されたが、石垣市がその制定前に作成中の自治基本条例に対する市民の意見を公募する手続き(パブリックコメント)(註2)を行うに際し、に石垣市側が石垣市自治基本条例をわかりやすく市民に説明するために作成された「逐条解説」という解説書には、住民からの住民投票請求手続きに関する自治基本条例28条1項及び4項について
石垣市自治基本条例「逐条解説」第28条(註1)
「住民投票に関する住民からの請求手続き、議員及び市長の発議について定めたものです。」
「第1項は、本市に選挙権のある者(有権者)が、地方自治法第74条(住民の条例制定改廃請求権)に基づくものの1つとして、『○○の住民投票条例』の制定について請求できることを定めています。市民はその代表者が市から認定を受け、1か月以内に市内の有権者の4分の1の連署を集め、市長に提出します。請求を受けた市長は、先ず選挙管理委員会により連署内容の有効無効の審査を経て、有効の場合、議会に付議するとともに、付議するにあたって意見を付することができます。」
「第4項は、第1項の規定による市民からの請求を拒むことができず、その請求があった場合は、所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならないことを定めています。」
と解説しているとおり、自治基本条例28条の住民投票の請求方法は、地方自治法74条の直接請求の方式で行うことが予定されているのである。
したがって、会が行った地方自治法74条の直接請求の方式で行った住民投票の直接請求は自治基本条例28条のその方式及び要件を満たしており、市長は、同条4項に基づき住民投票を実施しなければならない義務があるのである。
市側は当初、市民に対し、会が集めた署名は地方自治法74条1項の方式だったので、議会に付議したが、議会が否決したのでもはや効力は失ったと説明していたが、訴訟においては「逐条解説」記載の事実を認め、予備的に同条4項の「所定の手続き」とは「議会の議決」であるとその主張の力点を変えている。
しかし、この市側の主張も憲法94条や地方自治法14条1項に反し、認められないことは明らかである。
憲法94条(地方自治体の条例制定権)は「法律の範囲内」で、また、地方自治法14条1項は「法律に違反しない限りにおいて」として地方自治体は条例を制定することが可能であると定めている。
そして、法令に違反する条例とは通説・判例では、
ア 憲法の人権保障や公共の福祉に反する事項、イ 国の法令に明らかに反する事項、ウ 法令の趣旨、目的に反する事項、エ その規制について国のみが規制できるとされている事項、
とされている。
これを踏まえ、石垣市が、「①石垣市自治基本条例28条1項で住民投票の請求は、地方自治法74条の条例制定請求の方式にします。」と定めることも、「②石垣市自治基本条例28条4項で1項の要件を満たした請求があった場合、議会が否決したとしても市長はその実施義務がある。」と定めることも可能であり、上記ア~オに反しないのは明らかなのである。
もちろん、要件を満たした請求があった場合には、議会に付議することは不要だと定めることも可能である。しかし石垣市の場合は、一旦は議会に付議することを前提としている(註3)。