しかしながら、市長が「市議会が否決したので会の求めた請求は、効力は失った」と主張することは憲法94条及び地方自治法14条1項に反して許されない。なぜならば市側が、自治基本条例28条4項の「所定の手続き」を、「議会の可決」であると主張することは、同条1項で、地方自治法74条の署名の要件である「50分の1」から「4分の1」とハードルを上げ、さらに「議会の可決」が必要というものであり、このような解釈は地上自治法74条で認められた住民の権利を著しく制限するものとして、上記アイウいずれかに該当することになり許されない。市側の解釈は、憲法94条及び地方自治法14条1項が保障する地方自治体の条例制定権を悪用し、憲法および地方自治法で保障された地方自治体の自治権及び住民の権利を著しく制限するものだからである。
住民投票については一般的に地方自治法74条1項で〇〇の住民投票の「条例」制定を求める「個別未定型」と、別途条例による「住民投票請求」の方式定め、例えば有権者の4分の1の要件を満たした署名を集めた場合は、議会に付議することなく実施が義務付けられている「常設必至型」だけが考えられがちであるが、石垣市の住民投票条例を考察すれば、これは「個別必至型」という類型ということができる。これは、上記のチャート図をみればわかるように、常設型と違い、署名数の要件(例えば4分の1)を満たすことが出来なかった場合でも、50分の1以上の署名があれば地方自治法74条の通常の手続きとして議会で審議が可能となることや、個々の住民投票のテーマや性質ごとに投票資格者を外国人や未成年者にも広げたりすることが可能となるもので、上述した憲法94条の地方自治体の条例制定権を理解できれば、一般的な「個別未定型」と「常設必至型」に拘泥されず、このような「個別必至型」の条例の定めが法的にも十分に可能であるということが理解できるかと思う。
したがって、自治基本条例28条1項の要件を満たした原告らの住民投票の直接請求に対して、市長が議会の否決を理由として、その実施をサボタージュすることは明らかに違憲・違法であり、市長は、同条4項に基づき速やかに投票日を決め、その告示、そして選挙人名簿の調製を行い、住民投票を実施すべき義務がある。これこそが「所定の手続き」であり、そして必要があれば自治基本条例42条3項に基づき本件住民投票における実施のための個別規則を定めればよい。
石垣市自治基本条例「逐条解説」第42条第3項
「この条例の第7章から第16章に定める施策の推進に関して、必要な事項は別で定める。」
*自治基本条例28条の市民からの住民投票の請求及び市長の義務は第8章に記載がある。
一審である那覇地方裁判所では、却下判決がなされたが、判決は、市長に住民投票実施義務があるか否かには一切踏み込んでいない。却下理由である「処分性」について1月20日から始まる控訴審において争っていく予定である。なお、処分性についての原審判決を批判した控訴理由書はこちらから読むことが可能である。興味がある方はぜひ読んでみてほしい。
https://drive.google.com/file/d/1llQ52a4Ik1XMTsv2JDeTxw-e0k0nPcNx/view
ぜひ多くの方がこの裁判に注目し、この裁判を通して石垣島や宮古島で起こっている現実に目を向け、これらの問題から問われているものは何なのかを考えるきっかけとなってほしい。
【以下、注釈】
註1 2016年3月7日の自治基本条例改正により、男女共同参画の推進を定めた条文が第25条として追加されたため、住民投票条項27条はその内容のまま28条へと繰り下げられた。したがって条例制定の際のパブリックコメント用の逐条解説の住民投票条項は、27条として解説しているが、この本文では混乱を招かないように28条と記載している。
註2 パブリックコメント(意見公募手続制度)は、国や地方の行政機関が政令や省令、条例などを定めようとする際に、事前に、広く市民から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、市民の権利利益の保護に役立てることを目的としている。その手続等は行政手続法(第6章)に定められている。
註3 つまり、石垣市自治基本条例に基づく住民投票は、議会の条例制定における審議と住民投票による意見という双方を可視化させることを想定しているものともいえる。メリットとしては、間接民主主義と直接民主主義の双方の意見が聞けるということがあげられるが、これが市民にとってわかりやすいのかという問題は確かにある。しかしながら、これは今後より望ましい住民投票の設計とはという問題であり、本件裁判とはまた別の問題である。現行条例の解釈上、議会が否決したとしても、市長には住民投票を実施すべき義務があるということにはまったく変わりはない。