南西防衛の問題点とは―兵站・補給、米中戦争の最前線、馬毛島―

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台湾有事の前線基地となる九州・沖縄

二点目は、海兵隊を含めた在日米軍が進める日米の軍事的一体化の問題である。『太平洋海兵隊基地隊2025年戦略構想』は、海兵隊基地における陸自と第三海兵遠征軍の共同訓練の強化を重視している。これは、2017年から進められている海兵隊の「遠征前方基地作戦」(EABO)という新構想とも合致しており、対中戦争で日米両軍が共同作戦を行うことを目指す。

自衛隊が配備される南西諸島での各住民説明会で、防衛省が説明してきた南西防衛の意義とは、中国による国境侵犯への対抗だが、実際に進んでいるのは、台湾有事が米中戦争に発展したとき、日本が米国と一緒に戦う準備である。近年、陸自と海兵隊による日米共同訓練が活発に行われているのも、そのためだ。

国民の多くは自衛隊の国境防衛は支持しても、米中戦争に自衛隊が参加し南西諸島が戦場となることには理解が及んでいない。しかし、地元住民が危惧するのはまさに後者の点なのだ。

新しい基地をつくるときには、軍事戦略上の地の利、兵站・補給態勢や自然環境などが担保されている運用上の安定性、基地を受け入れる住民感情の三つの条件をクリアしなければ、基地ができたとしても機能させるのは難しい。しかし、現在自衛隊が配備されている、または配備予定の南西諸島の多くは、地の利しか満たしておらず、東京に住むエリート官僚が地図を見てこしらえた感がぬぐえない。

兵站・補給態勢の問題や、住民感情の話はすでにしたが、自然環境とは何か。

たとえば、奄美大島周辺の海峡は、中国が台湾を攻撃した際に台湾救援にやってくる米軍を阻止するため、中国海軍が太平洋へと出ていくルートの一つである。そのため、奄美大島には航空自衛隊、海上自衛隊の分屯地と、陸自ミサイル部隊の駐屯地がある。

だが、奄美大島は山の多い地形であるため、空自・海自は小規模な部隊しかおけない。陸自の駐屯地も二カ所に分かれている。また、港湾の水深が浅いため、強襲揚陸艦などの大きな艦船を寄港させることができない。南西防衛上の要所であり、自衛隊駐屯を住民から一定程度受け入れられていても、戦える部隊配置ができるかどうかはまた別の問題なのだ。

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