石垣市自治基本条例審議会答申の酷さについて

この記事の執筆者

  1. 自治基本条例2条の「市民の定義」

現行条例2条1項1号

「市民 市内に住み、又は市内で働き、学び、若しくは活動する人をいう。」

 見直しの最大のポイントとして挙げられたのが、自治基本条例2条の「市民の定義」である。審議会は、「『市民』の定義が広すぎて適切ではないため『日本国籍を有し本市の住民基本台帳に登録されている者』等と改正すべき」と答申しているが、「市民」を「日本国籍を有するもの」に限定する自治基本条例の改正案は、95年に日本が締結した人種差別撤廃条約に明確に反するレイシズムであり、↓外務省の「人種差別撤廃条約Q&A」からも明白である。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/top.html

 なお、審議会は地方自治法11条を引いて市民とは日本国籍を有する者をいうべきであるというような屁理屈を立てているが、これは地方選挙権における「国籍」による法的地位に基づく異なる取扱いであり、そもそも地方選挙権を外国人に拡大することは法律を改正しない限り不可能なのだ。

 一方、地方自治法10条は、「①市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。②住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分担する義務を負う。」と定め、外国人を含め地域に住所を有する者をすべて「住民」としており、また「役務の提供」とは、公共施設を利用したり、各種の社会保障等による援助を受ける等、地方公共団体及びその機関によって行われる住民福祉の増進を目的とする住民に対する一切の利便、サービスの提供が含まれる。

 国籍に限らず住民は、その住民たる資格をもって等しく平等に役務の提供を受けることができるのであり、地方公共団体は、理由なくしてその権利を拒否することはできない。しかも「市民」という定義は、地方自治法10条の「住民」の定義よりも広い概念として使用される。現行条例も、竹富町や与那国町の住民が、例えば石垣市立図書館などの公共施設を利用できるよう住民登録に拘っていない。審議会の答申も「テレワークや他拠点居住等、現在の社会において行われている多様な居住実態を反映させるような定義についても検討の対象とすべきとの意見があった」としているのだ。

これは「市民」の定義を「住民」の定義よりも広く石垣市に住所を有する者以外も一定程度対象とする検討を求めながら、一方で石垣市に住所を有する「外国人」は除外しようというもので、まぎれもない人種差別である。

 以上のとおり、「国籍」の有無による異なる取扱いが認められるのは、参政権が公権力の行使又は国家の意思の形成に参画する行為という合理的な根拠を持っているような場合で法が禁止しているものなど(地方自治法11条の地方選挙、12条の条例制定・改廃請求及び事務の監査請求、13条の議会の解散請求権及び主要公務員の解職請求権など)に限られ、地方自治法で保障された地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を奪うことは、人種差別撤廃条約に明確に反するレイシズム条例であり、憲法14条法の下の平等・差別の禁止違反であり、条例の制定は「法律の範囲内」と定める憲法94条違反であり、地方自治法10条違反である。

2.自治基本条例42条「最高規範」

現行条例42条1項

「この条例は、市政運営の最高規範であり、他の条例等の制度又は改廃にあたっては、この条例の趣旨を尊重し、整合性を尊重し、整合性を確保しなければならない」

 さらに審議会は、自治基本条例42条について、「『最高規範』という文言は、本条例が憲法や法律といった上位の法規範の上にくるものとも読めるため、法体系上整合性が取れないため改正すべきである。」と答申している。しかしながら、「市政運営における」という限定をつけているように「地方自治における最高規範」であるという意味は明らかである。

 しかも憲法が保障する団体自治・住民自治の具体化するものとして自治基本条例を「最高規範」と位置付けることこそが法体系上の整合性を図るものなのである。

 逆に、答申は自治基本条例2条の「市民」は「日本国籍に限る」と改正すべきとして、国際条約、憲法、法律の人権規定の上位に条例があり、外国人の人権を侵害しても構わないという提案しているのであり、論理破綻、自己矛盾も甚だしい。

 なお、自治基本条例は「まちの憲法」といわれるように、自治体における最高規範として位置付けられる。逆にいえば、いくらその他の規定を網羅していても、条例の位置づけを欠く場合、当該条例は自治基本条例とはいえないというのが一般的な理解である(「新設 市民参加〔改訂版〕」(公人社:2013年第2版)。

この記事の執筆者