5、日米の軍事的「一体化」
これらの事実に対して、日本政府はどのような説明をしているのか。これまでのところ、ミサイル配備とアメリカの作戦構想との関係も、はっきりとは認めてない。
ただ、2017年5月25日の参院外交防衛委員会での、沖縄選出の伊波洋一議員の質問に対する当時の稲田朋美防衛大臣の答弁が、そのことをにおわせている。
「南西地域の防衛体制の強化については、わが国の国家安全保障戦略のもとに策定された防衛計画の大綱及び中期防に基づき取り組んでいるものですが、防衛計画の大綱及び中期防に基づく南西地域の防衛体制強化を含む各種の施策は、結果として、エアシーバトル構想、オフショアコントロール論で想定されるミサイル攻撃に対応することが可能であるというふうに認識をしているところでございます」
日本の安全保障戦略ではあるが、 「結果として」アメリカの対中国作戦構想に対応可能になった、と。
ちなみに、稲田氏は、「エアシーバトル構想」がアメリカで公表された翌年の2011年、自民党が野党だった時に、議員として衆院外務委員会で民主党政権の玄葉光一郎外務大臣に、この構想について突っ込んだ質問をしている。状況を熟知したはずの人物が防衛大臣になったら、ミサイル部隊の配備がアメリカの作戦構想に「結果として」対応可能、などと思わせぶりな答弁しかしない。それがこの国の政治の現実だが、政府が、自衛隊とアメリカ軍の「一体化」を進めて、アメリカによる「中国牽制」の構想に乗ろうとしているのは明らかだ。
これまでの経緯は自民党だけの責任ではない。民主党の野田佳彦政権時の2012年4月、日米安全保障協議委員会(両国の外務防衛両首脳が会合する、いわゆる「2プラス2」)が東京で開催された。その共同発表で、「動的防衛協力」という概念が初めて示される。共同訓練や基地の共同使用など日米のより密接な協力によって抑止力を高める、という合意がなされた。いわば両国の「軍事的一体化」の促進である。その当時、野田政権は「日米の軍事協力に前のめりになった」とメディアに評価された。
これは合意を受けて、同年7月に作成された自衛隊の内部文書だ。共産党の穀田恵二議員が後に国会で明らかにした。文書は「動的防衛協力」の対象が中国であることを明記している。その軍事戦略として、前述の「A2/AD」を使った中国の米軍介入拒否を真ん中に示したうえで、中国の「海洋権益の拡大」として第一列島線、すなわち南西諸島を越える矢印が示されている。
さらに、沖縄の米軍基地での「恒常的な共同使用」についての部隊配置の構想も記載され、辺野古埋め立てによる新米軍滑走路が建設されている「キャンプシュワブ」には、陸上自衛隊普通科(歩兵)部隊を置き、米軍基地の「共同使用」をすることが図上で示されている。
2021年1月25日、沖縄タイムスは、辺野古の新米軍基地にアメリカ海兵隊のみならず陸上自衛隊の水陸機動団(日本版海兵隊)が共同で使用するという合意が、両国の制服幹部同士でひそかに交わされていたと報じた。
これも両国の合意に基づいたものと考えられ、政府間で正式に合意したものではない、という防衛省の説明は虚しく聞こえる。われわれ国民が気づきにくいところで、対中国を想定した日米の軍事的な「一体化」は、何年も前から既定路線として始まっている。
さらに沖縄へのミサイル配備は、自衛隊のみならず、アメリカ海兵隊も計画している。
米海兵隊は昨年、”Force Design 2030”(戦力デザイン2030)という10年先の戦力設計を明らかにする構想を発表。今後、戦車を全廃し、最新鋭ステルス戦闘機や垂直離着陸輸送機オスプレイも減らして、兵員を削減するなど海兵隊全体の大幅な改編計画を明らかにした。そのうえで、海兵隊トップのバーガー総司令官は、地対艦ミサイルを配備した「海兵沿岸連隊(MLR)」を新たに3隊創設して、ハワイ、グアム、そして沖縄に配備することを時事通信やスターズ・アンド・ストライプス紙などに述べた。
つまり、万一、アメリカが中国との紛争に突入したならば、自衛隊とアメリカ海兵隊が共同して、南西諸島を舞台に人民解放軍とミサイルの撃ちあいを始めることになりかねないということだ。言うまでもないが、島々には大勢の人が暮らしている。想像したくはないが、恐ろしい地獄絵が脳裏に浮かんでくる。
岩屋氏に「日本の守りの最前線」と言われた南西地域は、アメリカの戦術に追随する形で急速に「要塞」に変えられつつある。