対中国の「ミサイル要塞」にされていく南西諸島――国民を「捨て石」にする戦争を繰り返してはならない

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6、「沖縄戦の再来」

 こちらがミサイルで攻撃すれば、相手からも撃たれる。もし本当に人民解放軍が南西諸島を越える気ならば、まず島のミサイル部隊を潰してから来ると考えるのが自然だ。その時、住民の安全をどのように確保できるか。それが最大の問題だ。

 各島の人口は、宮古島約4万9千人、石垣島約4万8千人、奄美大島約5万8千人。これだけの人々を守る手だてはあるのか。

 2004年、有事の場合に攻撃などから国民を守るため、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」が制定された。略して「国民保護法」。有事や大規模テロの際に、国民の生命財産を守るための法律で、その責務は国と各自治体が担う。同法に基づき、各自治体は「国民保護計画」を作成。有事においての国民の人権保護や情報提供、避難指示、救援などさまざまな局面での対応を記している。

これは石垣市の国民保護計画に記載された概念図。住民が島外へ避難する際のイメージを示している。島内の避難施設を経て、飛行機や船で沖縄島へ向かい、そこから県外へ、という流れだが、石垣市の人口は5万人近く。すべての人が島外に出るのにどれぐらいの日数がかかるか、は書かれておらず、必要な飛行機や船をどう確保するかも具体策はない。仮に沖縄島まで避難できたとして、米軍基地が日本で一番集中している場所が、果たしてどれぐらい安全と言えるのか。それについても言及はない。

 また、宮古島の国民保護計画に添付された島内の避難施設の一覧表には、学校や公園、公民館などが列記されている。これではミサイル攻撃から市民を守る避難場所として、あまりに心許ない。地震や大型台風などの自然災害を想定した避難所でしかないのだが、現状を考えれば、地元自治体だけでは、それ以上の計画などどうしようもないということになる。

2018年11月の衆院安全保障委員会で、沖縄選出の赤嶺政賢議員が、防衛省内の検討文書を示した。仮に離島に2000名の自衛隊員がいたとして、4500名の敵部隊が着上陸侵攻をしてきた場合、それでは劣勢になる。そこに2000名の増援を送ってようやく奪還が可能という筋書きをしましたものだという。一方の残存率が30%になるまで戦うという想定、つまり7割は戦死ということだが、赤嶺議員は「沖縄戦の再来」と訴えている。

赤嶺政賢氏(HPより)

はっきりしているのは、奄美、宮古、石垣に配備されたミサイル部隊は、離島防衛のための戦力ではないということ。隊員数から考えても島を守れるだけの規模ではない。宮古海峡など南西諸島の島々の間を通り抜けようとする中国海軍を、ミサイル攻撃で封じ込めるための部隊配備であるにもかかわらず、反撃を受けた場合に島の人々を守るための手立ては、現段階では、まったくできていないと言わざるを得ないのが現状なのだ。

 離島の自治体の危機管理担当に聞くと、島外避難については、県とともに協議しなければならない、と言う。沖縄県の防災危機管理課に尋ねると、島外避難は国との調整が必要になる、と言う。沖縄に割拠する米軍が有事にどう行動するか、など全く分からない。

沖縄県の国民保護計画の「在沖米軍との連携」という項目には2行の記述がある。確かに県土に密集する米軍基地の動向は、県民の安全を考えるうえで無視はできない。しかし、米軍とへたに「連携」などすれば、住民が軍と行動をともにして筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられた沖縄戦の二の舞になる危険性は大きい。

 沖縄・南西諸島は、米軍基地が日本で一番集中しているうえ、新たにミサイル部隊まで抱え、対中国封じ込め作戦の最前線に置かれてしまった。しかも島嶼県で県土は狭い。県民はどこに逃げれば無事でいられるのか。国民が安全でいられることは、勝つか負けるか以上に重大事であることは言うまでもない。

小西誠氏

元航空自衛隊員で、「南西シフト」の問題を追及している軍事評論家の小西誠さんは次のように語る。

 「第一列島線を最前線とする米中紛争が起きれば、『先島限定戦争』になる可能性もある。ミサイル部隊が配備された島は、相手国からも攻撃を受けることになり、徹底的に破壊される。自衛隊は、島内にシェルターを設置する研究も行っているが、これで住民を守れるわけがなく、最終的には島の一部について『無防備地域宣言』を出し、島民はそこに避難して攻撃を避けるしかないだろう」

 「無防備地域宣言」とは、ある地域には軍事力を置かないということを相手国に宣言して攻撃を避けるというもので、ハーグ陸戦条約に基づいている。戦争になれば、それぐらい事態は深刻なのだ。

7、ミサイル配備は争点にならず

 今年1月、宮古島市で市長選挙が行われた。自民公明が推して4選を目指した現職の下地敏彦氏と、玉城デニー知事を支えるオール沖縄などの推す座喜味一幸氏が争い、座喜味氏が当選した。下地氏は、宮古島への陸上自衛隊配備を受け入れた市長だったが、対立候補の座喜味氏も配備は容認の立場だ。宮古島で最も重大ともいえる課題は、結局、この市長選の主要な争点にはならなかった。

座喜味一幸氏

当選が決まった直後、座喜味氏は、ミサイル配備問題についてこう語った。

 「市長が説明会や地元との話し合いに入り、正しい情報を共有して議論を進める。市民の不安については市長が率先して情報を公開していく。市民の理解を得ない安全保障はないと考えている」

 これまで政府はこの問題について十分な説明をしていない。そもそも島々に配備したミサイルを、いつ、どのような状況で発射するか、などは何も明らかにされない。国が、有事の作戦構想を説明したうえで、国民が安全でいられるための情報を明らかにするのは当然だが、これまでの経緯を考えると、われわれ国民はもはや政府の言うことを鵜吞みにはできない。敗戦から76年。沖縄は、またしても戦争と軍隊に関わる深刻な問題に直面することになった。

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