日本の立憲主義・民主主義は瀕死状態にある。それは、憲法違反を憚らない国会議員たちによって、粛々と「殺された」のである。
今日6月1日、「重要土地等調査規制法案」が衆議院本会議を通過した。度々書いてきたとおり、権力者の恣意で市民運動を弾圧する、とんでもない悪法である。そもそも立法事実が存在しないのだから、法案の体すら成していない。こんなものが「法案」として「国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」(憲法第41条)国会でまかり通るとは、到底現代民主主義国家の有様ではない。
憲法第99条は、国会議員は「憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定めているのだから、与野党関係なく、国会議員がこんな法案を許してはいけない。この法案に賛成した議員たちは、もはや議員としての正統性を失っているのであり、即刻政界を退場すべきである。
政府の説明に従えば、この法案は基地・原発などの周囲の土地を主要な対象とするので、基地が一極集中する沖縄をターゲットにした沖縄弾圧法案である。しかし、「国家安全保障上重要な土地」の定義は内閣総理大臣に委ねられており、主要駅・発電施設・空港・オリンピック会場・ワクチン接種会場など、いくらでも拡大できる訳で、日本全体に実質的な戒厳令を敷く法案である。当然「沖縄問題」として等閑視できるものではない。
この法案が成立すれば、日本全体は戦時に入る。それだけ危険な法案なのに、全国メディアの危機意識は低すぎた。例えば朝日新聞では、この法案が衆議院内閣委員会で審議入りした翌日5月12日以降、朝刊一面トップ記事で同法案を取り上げることは一切なかった。コロナ・ワクチン接種のニュースが重要なのも判るが、ウイルスのような自然物ではなく、権力者が市民活動を破壊しようとする法案なのだから、もっと大きく扱うべきだったと思う。
時事通信など一部メディアは「安保土地法案」という表現を用い、この法案が国民の安全を保障するかのような印象操作を行った。しかし、この法案の内実は、市民が自らの基本的人権を守るべく行う取り組みに、国家権力が介入・妨害するものだ。
「重要土地」を撮影しようとしただけで規制されるというのだから、辺野古の座り込み、遺骨収集、土砂採取・水質汚染・米軍の訓練等の監視活動、戦跡を活用した平和学習など、市民の「健康で文化的な最低限度の生活」を守るためのあらゆる行為が弾圧される。国民の安全より、国家権力や安保体制が優先されているということであり、「安保土地法案」などという表現は全く正反対だ。こんな印象操作に与するメディアは、「大本営発表」を垂れ流した戦前のメディアと同じく、軍事化・強権化した政府の「共犯者」である。
戦後76年、なぜ日本社会はかくも早々と「戦前回帰」を果たしてしまったのだろうか?