無力感に駆られるな!―「重要土地等調査規制法案」が成立した今、私たちにできること

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6月16日、遂に重要土地等調査規制法案が参議院本会議で可決・成立してしまった。衆参両院での強行採決の末、午前2時半に本会議で成立させるという、世紀の蛮行である。

立法事実すらなく、法案の体すら成していない上、立憲主義・民主主義を冒涜するという「稀代の悪法」が成立したのだ。この屈辱を絶対に忘れてはならない。

憲法第99条の定める「憲法を尊重し擁護する義務」に背いた国会議員たちは、来たるべき選挙で必ず政界から追放されるべきである。

菅政権は96.8%という異常に高い法案成立率を誇りにし、国会閉会日のNHKニュースはあたかもそれを政権の政治能力の証左のように報道していた。しかし、強行採決と多数派の暴力を前提にした政治運営であったからこその法案成立率の高さであって、断固批判されるべき現象である。

参議院内閣委員会では、同法案に前向きな吉原祥子・東京財団政策研究所研究員も含め、招致した3人の参考人全員がこの法案の不備と危険性を露わにした。それにもかかわらず、参考人の意見を歯牙にも掛けず採決が強行された。コロナ対策を巡る専門家の方々の処遇にも通じるものがあるが、学知に基づいた冷静な議論を放棄する反知性的な姿勢は、今国会で一貫して露呈した現政権の悪弊だと思う。

このような法案が成立した以上、日本はもはや立憲主義・民主主義に基づく社会ではなくなったし、市民の自由な思想・言論・活動がいつ弾圧されるか判らない。共謀罪と同様、「実際運用されるのを許さないための取り組み」に邁進するしかないのだが、その努力が確実に実る保証もない。

このような状況に、私たち市民はどう立ち向かうべきなのだろうか?

第一に、この法案の危険性に対する認知度が未だ低すぎるという現状を打破せねばならない。

「#土地規制法案を廃案に」というTwitterデモは、法案強行採決が迫る中で最後の盛り上がりを見せ、15万件を超えるツイートが寄せられたという。深夜にもかかわらず、多くのユーザーがオンラインの国会中継を見続け、リアルタイムで抗議の声を上げ続けたのは印象的だった。

しかし、検察庁法改悪反対のTwitterデモは470万人超えのツイートを集めたそうだから、重要土地等調査規制法案に危機意識を持った市民は本当にマイノリティだったのだろう。

「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案」との正式名称のせいで、メディアも市民も統一した通称を作りづらかったし、国民生活を保護する法案であるかのような印象すら作り出された。そもそもこの法案は、「『重要施設』周辺の土地を外国資本が買い占めるのを防ぐ」との立法目的すら満たさないものだったので、法案名と法案の内実が全く対応していなかったことになる。しかし、時事通信社のように、「安保土地法案」との略称を用いたメディアもあったから、法案作成者の姑息な印象操作に欺された市民も少なくなかっただろう。

従って、今回の強行採決がまかり通った主因の一つは、「この法案への知識を巡る市民の分断」だと言えるだろう。安全保障を巡るイデオロギー対立以前の問題として、この法案の内実を知っていた人が余りに少なかったことが最大の敗因だと思う。

「本法が実際運用されるのを許さないための取り組み」を強固なものにするためには、この知識面での分断を埋めるのが喫緊の課題である。

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