沖縄現代史の節目をどう捉えるか

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「安全保障態勢強化」一辺倒の落とし穴

 近年になって中国の海洋進出を、新基地建設の必要性として挙げる議論もあるが、それ以前から進行していた新基地計画を後付けで正当化するものと言わざるを得ない。とはいえ、地域情勢の変化に対応した安全保障上の態勢強化は必要だろう。

この点について、冷戦後日本外交のグランド・デザインを描いた元外務審議官の田中均氏は次のように言う。「中国が急速に台頭し、東シナ海や南シナ海で攻撃的な態度を取りだした。朝鮮半島情勢も考えれば安全保障面での沖縄の重要性は高まっている。だが、同時に沖縄に大きな負担を押し付け続けている問題は解消されていない。沖縄の基地の重要性が高まったから負担軽減はしなくていいとはなり得ない。両方を追求するのが正しい姿勢だ」(『毎日新聞』2021年4月30日)。

また、地域秩序の安定は軍事・安全保障だけで達成されるはずもない。田中氏の「同盟強化は必要だが、同盟さえ強くしておけば、台湾に中国が侵攻することはなく、戦争もおこらないということにはならない。中国とは大きな依存関係があり、安全保障面でも当然、協議・交流を重ね、信頼醸成を図っていかねばならない」(同上)といった発言は、ごく常識的なものだが、抑止力強化ばかりが語られる風潮の中にあっては、かえって新鮮に映る。

普天間返還合意を打ち出した橋本首相は、その傍らで中国が台湾の沖合にミサイルを撃ち込むという台湾海峡危機(1995-96年)にも直面したが、退陣後は自衛隊と中国の人民解放軍中堅層との交流を推進した。

その意図について橋本氏は、「やり方の違いもありますし、台湾海峡危機における騒動のようなものもあります…人民解放軍自身の本音を叩かないと(聞き出さないと)分からないところがいっぱいあるのですね」「人民解放軍とはできるだけ交流を深めておいたほうがいいと思います」(五百旗頭真・宮城大蔵『橋本龍太郎外交回顧録』146-148頁)と語る。緊張が高まるほど、平時からの交流が対決回避の糸口にもなる。

安全保障態勢の強化と沖縄の基地負担軽減、そして幅の広い外交構想といった上記のような組み合わせが本来、求められるのだろうが、どうも「新基地建設」や「抑止力」といった勇ましい軍事の論理ばかりが目に付くこの頃である。

「返還合意25年」、「復帰49年」、「沖縄戦終結76年」をはじめとする現代史の節目は、日々のニュースで次から次へと伝えられる眼前の出来事について立ち止まり、その歴史的な文脈を再確認するたいせつな機会である。それはまた、ものごとの「本筋」-本来、あるべき姿-ということにも深く関わっている。

ときどきの政府の都合という圧倒的な力の前に、ともすると振り回されることになりかねない沖縄にとって、歴史の節目に際して「本筋」を改めて確認することは、とても大切なことだと感じる。来年の「復帰50年」という稀有な節目に向けて、さまざまな思索が深められることになるだろう。

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