菅首相は米誌ニューズウィークのインタビューで、台湾有事に関連し、「沖縄を守らなければならない」との考えを示した。今年の全国戦没者追悼式式辞では「未だ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません」とも述べた。呆れるほどの自己矛盾だ。自民党政権が続く限り、沖縄が「守られる」(そもそも、沖縄を「守る」というパターナリズムに満ち溢れた発言に鳥肌が立つ)ことはない。
現政権は、沖縄県民のみならず、あらゆる市民の声を一切無視する。自民党政権存続は、沖縄に限らず、日本全体に犠牲を強いる。沖縄を取り巻く現状と、日本社会の構造悪の改善のためには、政権交代が不可欠だ。政権交代のための一段階としても、まずは「遺骨土砂問題」意見書採択運動を全国展開したい。
抗議の声を徹底無視し、市民を無力感・徒労感に落とし込むのが国の戦略だ。市民はそれに負けず、合法・非暴力の草の根の市民運動を貫徹すべきだ。私は市民運動を「ブリコラージュ」と捉えている。思いつくことを様々な場所で手当たり次第全部やり、それらを切り貼り・組み合わせして、最終的に実質的変化が起きれば良い。正確なグランドデザインなど持てないし、思いつくこと色々試し続けるしかない。
8月7日、私は兵庫県ユニセフ協会主催のトークイベント「平和をつくるをカタチに① ヤマトンチュとして沖縄に向き合う」に出演したが、ご一緒した高尾具成・毎日新聞社専門記者(5月5日「辺野古埋め立て 声なき叫び、沖縄の心 『遺骨で基地ノー』若者うねり」と題した記事で、私の活動をほぼ一面を割いて取り上げて下さった)の報告には勇気づけられた。
高尾記者によると、3月26日の毎日新聞「みんなの広場」欄に私の投書「沖縄問題に当事者意識を」が掲載されたことと、5月の特集への読者の反響が大きかったこと(5月10日に、反響をまとめた記事が出されたほど)が、「沖縄の現状を取り上げるべき」との社内世論形成に大きな影響を与え、国吉勇氏が収集された沖縄戦遺品の写真特集記事や、連載企画「沖縄「復帰50年」の群像」の実現に繋がったそうだ。
読者による問題提起と良質な報道への好意的反応には、紙面を作る確かな力があるのだ。メディアに恨み言を言うだけではなく、投書や意見を通し、沖縄報道の拡充を訴え続ける市民が増えれば嬉しい。
とはいえ、3度の具志堅さんのハンストを黙殺し続けたNHKを筆頭に、大手メディアの沖縄報道はまだまだ不十分・不適切だ。
特に8月11日、NHKの深夜の解説番組「時論公論」は『沖縄 戦後76年 今なお直面する課題』は問題だ。この番組「遺骨土砂問題」・サンゴ移植問題・軟弱地盤問題を取り上げたが、田中泰臣・解説委員は「辺野古への移設を進める政府と、阻止を目指す沖縄県との対立は長期化し、解決の糸口さえ見出せなくなっています」などと発言した。「沖縄の圧倒的反対を無視する国が一方的に悪い」という点を隠蔽し、国と県との主張を「両論併記」すれば、「沖縄県も、もう少し柔軟になれば良いのに」と思う視聴者も出てくるだろう。全く公平中立な報道ではない。下手に沖縄県側の主張もリップサービスのように取り上げているから、沖縄を完全無視するよりも罪深いとも言えるかも知れない。
大手メディアには自分たちの強い世論形成力を意識し、沖縄に当事者意識を持つヤマトンチュを増やす報道を心がけて欲しい。残念ながら、今のところ全国メディアは頼りないので、ヤマトの市民には琉球新報・沖縄タイムスをはじめとする在沖メディアや、沖縄にいる活動家のブログ(例えば目取真俊さんや北上田毅さんのもの)を毎日チェックし、沖縄の緊迫感を共有する努力が求められる。ただ、大手メディアは構造的沖縄差別の加害者であるヤマトから沖縄を見る報道を拡充すべきだと思うし、私たち市民もそうした要求を続けるべきだ。
一大学生の、ちょっとした足掻きでも、政治・メディアを動かす一つの力になれるのだ。広汎な市民の多様な運動の継続で、政権交代を掴み取り、沖縄・日本の現状を変えたい。自分たちの生存が掛かっているのだ。「まだ出来ることがあるぞ」と、自分を毎日鼓舞したい。