島々を日米同盟の「盾」にする要塞化計画――鹿児島県・馬毛島で何が起きているのか

この記事の執筆者

島を見守る人々

馬毛島での開発問題に早い段階から取り組んできたのは、地元の漁業者の人々だろう。馬毛島の沿岸部はトコブシやトビウオなどの優良な漁場だが、業者が島で行う樹木伐採などの開発工事によって表土が海に流れ出せば、漁業資源を荒廃させる恐れがある。種子島、屋久島の漁業者らと自然保護団体が、業者による採石事業の工事差し止めの仮処分を鹿児島地裁に申し立てたのは今から20年前。米軍FCLP移転計画が取りざたされるよりもずっと前だ。

以後、漁業者らを中心に工事差し止め請求や、買収地の「入会権」を主張して登記抹消を求めるなど、法廷での闘いが続いている。鹿児島県が昨年、防衛省による基地建設のための海上ボーリング調査を許可した際は、調査差し止めの仮処分申請とともに許可の取り消しを求めて県を提訴。いずれも却下されたものの、今年7月に県が調査延長を許可したことで、再び調査差し止めの仮処分を申請している。

 島とその周辺の自然環境を守ることは、海を糧とする暮らしに直結することである。そしてそれは地域の島の人々の営みとこれまでの歩みにもつながっている。

 西之表市では、2017年の市長選で6人が立候補。馬毛島基地建設反対を訴える八板俊輔氏が混戦を制して初当選。今年1月に行われた選挙でも反対を掲げて再選を果たした。

八板氏は、種子島生まれ。大学卒業後、朝日新聞に入社し、主に社会部記者として沖縄の基地問題などの報道に携わってきた。実は私は彼の後輩だ。同社の西部本社社会部などで先輩・八板記者の指導を受けていた。争いを好まない温厚な性格で、丁寧な取材を心がけ、取材相手からも信頼される優れた先輩記者だった。

 八板市長は昨年10月、それまでの防衛省の説明をふまえ、「馬毛島問題への所見」と題して自らの考えを記したA4判5枚の文章を公表した。故郷の未来への憂い、島民の分断への苦悩、そして、国民全体に対する切なる問いかけが、そこに読み取れる。

 「日本の領土内に新たに土地を取得して、外国軍(米軍)に施設・区域を提供する例は、沖縄の復帰後、馬毛島が初めてとなります・・・米軍は希望すれば国内のどこでも施設(領土)の提供を受ける最初の事例となります」
 「米軍、自衛隊の補給、集積地として馬毛島が重要な施設となれば、軍事上の標的となり、地域住民の安全が脅かされることになります」

日米安保条約締結から70年。この小さな島に築かれようとしている軍事要塞は、「対米従属」と呼ばれる敗戦後日本の外交政策の中でも異例であることを指摘している。ひとたび米軍の訓練施設となれば、森林などの自然や豊かな漁場は失われる。自衛隊機はまだしも、米軍機の飛行ルートについては地元自治体の意向など一顧だにされない。

 「何千年も維持されてきた自然景観が、人為的に替えられます」。
 「私は、今回の訓練施設の設置によって失うものの方が大きいと考えます。先人の知恵を歴史に学び、祖先から受け継ぐ故郷を次代にしっかり伝えなければなりません。静かで豊かな環境も守り、地域本来の力を信じて進む道が、常に私たちの目の前に開かれています」

 そして基地建設には「同意できない」との考えを明記している。

 読み返すと、冒頭にある「安全保障の課題であるとともに、日本の独立の在り方も問われる重大事です」が重みを持って感じられる。自然豊かな地をこれからも守り続けたいという土着の思想、そして、今や日本国憲法をも凌駕してこの国の「国是」ともいえる「日米安保体制」に対する懸念が綴られた文章だ。

それでも1月の市長選での勝利は僅差だった。

この記事の執筆者