「国防は国の『専権』事項」
一般質問最終日の25日、野党の内原英聡議員(会派ゆがふ)が、さらに追及する。
論点のひとつが、中山市長が過去に繰り返し述べてきた「国防は国の専権事項」という議会答弁だ。
地方自治法には「国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務<中略>その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い・・・」(第一条の二)とある。これに基づく「役割分担」で、外交や防衛などの事項は地方行政ではなく国が所管すべきものとされる。それが、駐屯地建設に関する住民投票の実施にも、市長が積極的でない理由のひとつでもある。
これまで議会で自衛隊配備や米軍基地の問題について見解を問われると、「国民の安全保障も含めて国の『専権事項』であります。自治体の長が云々言うものではございません」(2010年12月議会)といった答弁を繰り返してきた。
だが、「専権」を辞書で引くと、「好き勝手に権力をふるうこと。その物事を思いのままにできる権利」などとある。なので国会などでは「専管事項」と説明されることも多い。「専管」は「一手に管轄すること」だ。
内原議員は、市議会の過去の会議録を参照し、市長が就任からの議会答弁で、国の「専権事項」という言い回しを一貫して使ってきた、と指摘。
内原氏「国防は時の政権が好き勝手に権力をふるえるような分野ではなく、思いのまま何でもできるというものではない。『専権』と『専管』。わずか一文字の違いだが、一事が万事だと思います」
中山市長は、2015年7月に衆院平和安全法制特別委員会で参考人として発言した際にも「国防や安全保障というのは国の『専権』事項だというふうに思っております」と述べている。内原議員はその件も取り上げ、「有事の際の住民避難について市長は重大な責任を負っている。市議会の会議録を過去にさかのぼり、すべて文言修正する必要がある」と述べた。
中山市長は「『専権』も『専管』も両方使わせていただいております」と答えたが、議会発言を会議録で検索してみた限り、自らの言葉で「専管事項」と述べた例は見当たらない。
「『国の専権事項』という言葉ではぐらかさず、市長は市民への説明責任を果たしていただきたい」と内原議員は求めた。
島民の避難計画は――
いくつかのやり取りがあり、持ち時間は残りわずかだったが、最後の質問に対する当局の答弁が、自衛隊の問題に関して今議会での数少ない前進だったかも知れない。
内原議員は問うた。「国民保護計画の避難実施要領のパターンはいつ公開されるのか」
これについても少し説明が必要だ。
2004年、有事の場合に国民を守るため、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)が制定される。攻撃や大規模テロに際し、国民の生命財産を守るための法律で、その責務は国と各自治体が担う。同法に基づき、各自治体は「国民保護計画」を作成。有事においての国民の人権保護や情報提供、避難指示、救援などさまざまな局面での対応を記している。
石垣市も2013年3月に「国民保護計画」を作成。下の図はそこに記載された概念図で、住民が島外へ避難する際のイメージを示している。
島内の避難施設を経て、飛行機や船で沖縄島へ向かい、そこから県外へ、という流れだが、もちろんこれだけでは、戦火の中を市民はどこへどうやって逃げればいいのか、まるでわからない。
市によると、これとは別に着上陸やミサイル攻撃、テロ発生などを想定していくつかのパターンの「避難実施要領」を2019年から作成しているというが、それはまだ公開されていない。島外への避難は飛行機や船舶が必要で、国や県の支援も必要になるが、島内での空港や港湾までの誘導を担うのは石垣市だ。今の状態では有事が突発した場合、5万人近い市民はなんの予備知識もないまま避難しなくてはならない。県内の離島、宮古島市の国民保護計画には、学校や公園、公民館など島内の「避難施設」の一覧表が一応は添付されているが、石垣市ではそれも公表されていない。
市の説明では、非公開の理由は、市民の避難経路や避難場所がテロや攻撃の対象になる、との懸念があるという。だが、それでは市民は「逃げ道」や「逃げ場」を普段から意識することはできない。内原議員の質問は、そこを指摘したものだった。
質問に対し、市当局は「国民保護計画の避難実施要領のパターンについては、県内自治体の取り扱いを参考に、総合的に非公開と判断しております。しかしその後公開する自治体が増えていることから、市民への周知徹底を図るため、今後公開することを予定しております」と答弁した。
閉会後、内原議員に聞いた。「石垣市の避難計画は実質ないに等しい」と言い切る。
国民保護法は「国、地方公共団体・・・は、国民の保護のための措置に関する情報については、新聞、放送、インターネットその他の適切な方法により、迅速に国民に提供するよう努めなければならない」(第八条の二)と定めている。
内原議員は「市長の裁量で非公開にしていい理由はない」。そのうえで「駐屯地は来春には開設される。ひと山超えた感はあるが、なんら問題は解決していない。これからは米軍も訓練に来るでしょう。規模拡大はさせてはならない。部隊配備はむしろ『始まり』です」と強調した。