「台湾有事」狂想曲~誰が戦うのか

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ウクライナ戦争は、核大国が核を持たない主権国家を公然と侵略したことで世界に衝撃を与えた。もっとも、同じ構図は重大な先例として、米国が仕掛けたベトナム戦争やイラク戦争を挙げることができるのであって、民間人の犠牲者数はウクライナの比ではない。とはいえ、歴史的に密接で複雑な関係を有してきた隣接する国家間で戦争が勃発した結果、台湾統一をめざす中国の動向が改めて大きな焦点として浮上してきた。

シミュレーションの陥穽

去る1月9日、米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が公表したシミュレーションが内外に反響を呼びおこしている。それによれば、2026年に中国軍が台湾に武力侵攻した場合、24通りのシナリオの大半で侵攻は「失敗」に終わるが日米両軍も甚大な損害を被(こうむ)る、というのである。岸田首相の訪米を控えた時期であり、米軍基地をかかえる日本が台湾防衛の「要」と強調され、さらに台湾に対しては「事前に必要な全てを保持せねばならない」と求めていることを見ればこの報告書の狙いは、日台が戦争に向けての体制を早急に固めよ、ということであろう。

しかし、あたかもゲームセンターで理由もなくひたすら戦闘が展開されるゲームを見ているかのように、この報告書では、なぜ中国軍が台湾を攻撃するのかという、大前提となる問いが完全に捨象されている。昨年11月のインドネシア・バリでのG20で習近平がバイデンに改めて通告したように、「一つの中国」の原則が破られるとき、つまりは台湾が独立を宣言するときが中国にとってのレッドラインなのである。この場合、中国はいかなる犠牲を払っても軍事侵攻するというのが専門家の一致した見方であり、敵基地攻撃能力の保持など、いかなる抑止にもならない。

 とすれば、戦争の勃発を避けるために関係諸国は「現状維持」を至上とせねばならないはずである。ところが、中間選挙を控えた昨年夏にパフォーマンスとして敢行されたペロシ元下院議長の訪台は情勢を一気に悪化させ、中国はこの機に乗じて軍事演習のレベルを最高度に引き上げ既成事実とした。与那国島の沖合80キロに弾道ミサイルが着弾したのは、この時であった。今春にはマッカーシー議長の訪台が予定されている。米議会の権力闘争が台湾危機を挑発しているのである。

誰が戦うのか

他方で、偵察気球問題が衝撃的に報じられたように、一党支配下の軋轢(あつれき)をも背景とした中国の強硬な対外姿勢が米国を刺激していることも間違いない。冒頭の報告書では、台湾防衛で米軍の空母、艦船、航空機なども大打撃をうけ、米兵も最大1万人の死傷者がでると想定されている。しかし、果たして米軍は直接の戦闘に加わるのであろうか。おそらく米国の基本戦略は、ウクライナで具体化されている「セッティング・ザ・シアター」(戦場を準備する)であろう。つまり、米軍が行うのは立案、訓練、物資の事前配置、作戦維持の拠点の設置などであって、この戦場で戦うのは台湾軍と矛としての自衛隊であり、犠牲となるのは台湾と沖縄の住民である。だからこそ、日米会談の共同声明でも「不可欠で重要な最新技術」の供与が謳(うた)われたのであり、米軍はあくまでも後方支援なのである。

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