荒唐無稽な「敵基地攻撃」論

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ウクライナ戦争と国連「軍縮アジェンダ」

ウクライナ戦争を奇貨として日本政府は、戦後の防衛政策の大転換となる「敵基地攻撃能力」の保持に踏みだし、今後5年間で防衛費に43兆円もの巨費を投入するという防衛力整備計画を打ち上げた。しかし、こうした大軍拡の方針は、ウクライナ戦争から誤った結論を導き出したと言わざるを得ない。この戦争の歴史的な背景については無数の論争が交わされているが、概ね二つの見方に分けることができるであろう。一つは、ロシア帝国の再現を夢想するプーチンの野望の現れとする見方であり、二つは、侵略を批判しながらも米国主導の「NATOの東方拡大」がプーチンを追い込んだとする見方である。おそらく現実は、これら二つの要素が複雑に交錯して戦争が展開されているのであろう。

 ただ、こうしたロシアやウクライナ問題の専門的な見地を離れて捉え直してみるならば、問題の本質を鋭く抉りだすのが、「無秩序で際限ない軍拡競争」が人類や地球に「壊滅的な結末」をもたらすであろうと世界に向けて警告を発した2018年の国連「軍縮アジェンダ」である。(UN Agenda for Disarmament, 2018)そこでは国連が取り組むべき「課題の核心」として、核兵器、生物・化学兵器などの大量破壊兵器や宇宙の軍事化に対処する「人類を救う軍縮」、破壊力を増した通常兵器の氾濫による膨大な市民の犠牲に対処する「生命を救う軍縮」、さらにはAI兵器やサイバー攻撃など「ゲーム・チェンジの兵器」に対処する「将来世代のための軍縮」が掲げられている。

驚くべきは、プーチンによる核の恫喝や各種の無人兵器が戦場の主役となっている状況に象徴されるように、上記三領域の軍縮の課題が今日のウクライナで悲劇的に凝縮されていることである。ウクライナの衝撃から軍拡の緊要性を引き出すならば、それは根本的な間違いであり、今回の戦争の本質的な問題が何一つ理解されていない。ウクライナ戦争は、最新兵器の「ショールーム兼実験場」と称されるように、際限ない無秩序な軍拡競争の行き着く果てを示しているのである。

英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2022年4月29日付)はプーチンによる核使用の可能性の問題にふれるなかで、「世界のほとんどの人にとって、これまで生きてきた中で最も危険が大きくなっている」と警鐘を鳴らした。「軍縮アジェンダ」が提起した、人類と地球の「壊滅的な結末」というシナリオが現実のものになりつつある、ということであろう。今こそ、国連「軍縮アジェンダ」を正面に掲げ、核兵器の禁止をも含む全面的な軍縮に踏み出すべき時であって、これこそが引き出されるべき最大の教訓である。

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