「台湾有事」狂想曲~誰が戦うのか

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台湾の民意は

ところで、気球の撃墜で緊張が増したにもかかわらず注目すべきは、米中両国が「台湾有事」を見すえつつ本年を危機管理にむけた「対話の年」と位置づけ歩み出そうとしていることである。それでは、肝心の台湾の人びとは何を考えているのであろうか。民主文教基金会が去る1月12日に行った世論調査によれば、「米国は台湾を利用して中国を牽制(けんせい)しようとしている」との問いに約57%が賛成し、「米国を信頼してこそ台湾を守れる」との問いに約62%が反対、「米国と距離をとってこそ米中衝突に巻き込まれない」との問いに53%が賛成と答えた。(遠藤誉「台湾民意調査」1月20日)

 こうした世論の動向が続けば来年の総統選挙では国民党の候補者が勝利し「和中保台」が進む可能性がある。もちろん、新政権が中国に接近し過ぎれば賢明な台湾世論はブレーキをかけるであろう。これが台湾世論の絶妙なバランス感覚である。いずれにせよ、台湾がこうした方向に進むならば、日米のタカ派が煽(あお)りたててきた「台湾有事」狂想曲は一つの段落を迎えるであろう。また、岸田政権が強引に決定した敵基地攻撃能力の保持や防衛費2%の方針も、財源を欠いたまま“空手形”に終わるかも知れない。

戦争回避を求める国々

ウクライナ戦争の開始以来、「ウクライナの次は台湾」と危機が煽られてきたが、大きな違いがあることを認識せねばならない。それは、東アジアにはASEAN諸国やインドなど「米中対決、米中戦争に巻き込まれたくない」との立ち位置をとり、緊張緩和で重要な役割を果たそうとする国々が多数存在することである。シンガポールのシェンロン首相は「いかに戦争は馬鹿げたことか」と断じ米中双方に戦争回避を求め、またバリでのG20を主催したインドネシアのジョコ大統領は自ら主導して、「今日の時代は戦争の時代であってはならない」との首脳宣言をまとめあげた。

 仮に台湾有事が勃発すれば沖縄は間違いなく戦場となる。しかし、CSISの報告書は沖縄県民が被るであろう膨大な犠牲については全く無視している。東アジアの軍拡は「制御不能に陥る危険性がある」との警告が発せられているにも拘(かか)わらず(「CNN」1月23日)南西諸島の軍事化をひたすら推し進める日本政府も、県民保護については本格的な対策に取り組もうとはしていない。政府が沖縄県民の生命と安全を保障できないのであれば、沖縄県が「台湾有事」狂想曲を乗り越え、戦争回避を求める東アジアの国々や自治体、市民との連携を深めるために独自の自治体外交を展開することは、全くもって県の「専管事項」である。

【本稿は2月23日付琉球新報掲載記事を加筆修正の上、転載しました】

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