「なし崩し」で進むのか~新設の陸自石垣駐屯地「反撃型ミサイル」配備への懸念

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歴史的大転換

石垣島など八重山諸島の住民は戦時中、日本軍の命令でマラリアのまん延地に強制移住させられ、人口約3万1千人のうち3600人余りが犠牲になった。戦後は軍事防衛施設とは無縁だった。与那国、石垣での駐屯地開設は歴史的な大転換である。

自衛隊配備を巡っては、15年11月、若宮健嗣防衛副大臣が中山市長を訪ねて計画を正式に伝えて以降、住民間で賛否が割れてきた。「災害時に迅速な対応ができる」「中国への抑止力となる」と支持する意見がある一方、「災害時は駐屯地も被災する」「攻撃対象、標的になる」といった意見も。反対派には自然環境問題への懸念も根強い。

駐屯地建設に伴う造成面積は29ヘクタール。駐屯地背後の山には国指定特別天然記念物のカンムリワシが生息する。駐屯地の下方には飲料水の地下水源や農業用水の河川もあり、周辺住民らは環境や生態系への影響を危惧していたが、沖縄防衛局は沖縄県の改正環境影響評価(アセスメント)条例の適用が始まる直前に造成工事に着手。広大な駐屯地建設は、環境アセスを受けることはなかった。

地元在住で日本地下水学会に所属する東田盛善氏(68)=富山大学理学博士=らは「陸水環境への影響が懸念される」として、独自に地下水や河川水のサンプルを採取・分析するなど調査。駐屯地建設現場近くにある川が、水源地の地下水を涵養していると考えられるとの論文を、22年11月の日本工業用水協会会誌「工業用水」に掲載、同誌の22年度論文賞を受けた。東田氏は「自衛隊配備の賛否はともかく水資源の問題を深刻に考える必要がある」と指摘している。

中山市長は18年7月、受け入れを正式に表明。自衛隊配備が推し進められる中、配備予定地周辺にある実家で農業を営む金城龍太郎さん(32)ら当時20代後半の若者が中心となって「民意を確認してほしい」と住民投票を求める署名運動を展開。有権者の4割にあたる1万4263筆を集め、地方自治法に定められた直接請求制度を使って中山市長に住民投票を直接請求した。

ところが、市議会に上程された住民投票条例案は否決された。その後、「有権者の4分の1以上の連署をもって、市長に対して住民投票の実施を請求できる」「市長は請求があったときは所定の手続きを経て住民投票を実施しなければならない」と定めた市自治基本条例の実施義務規定も市議会で与党多数で全部削除された。

金城さんらは、この規定を根拠に2件の裁判を起こした。1件は最高裁で棄却されたが、もう1件は係争中で今年5月に地裁判決が出る。金城さんは裁判の意義をこう語る。

「駐屯地に勤務する隊員の中には同級生や先輩・後輩もいる。おかえりという気持ちがある一方で、快く受け入れられる状況ではない面もあって複雑。工事が始まって以降、住民は『しょうがない』という気持ちになっているのかもしれない。僕もその気持ちは分かる。でも住民の関心の高い重大な問題についてトップダウンがまかり通ってしまう前例をつくってはいけない」

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