こうした将来の事業を作るためにも、第一にすべきことは未開発緑地帯の県有地化だと具志堅さんは重ね重ね強調される。県有地化が実現すれば、遺骨収集や平和学習の場を開発から守ることが出来るし、地権者からそうした活動を制限される不安もなくなる(鉱山が作られれば、関係者以外は立ち入れなくなる)。
今回具志堅さんと歩いた未開発緑地帯でも、探せば遺骨が出そうな場所がいくつもあった。ガマの内部ではなく、入口付近にご遺骨がある場合もあるし、雨などで流されたご遺骨が窪みになっている場所に溜まっている可能性もある。具志堅さんは、未開発緑地帯をグリッドに分け、一つ一つをしらみつぶしに調査・収集していくべきだと話す。その過程を記録に残し、調べた地域全体を「沖縄戦の被害の実相を伝える霊域」にして欲しいとのことだ。現状では遺骨収集は具志堅さんのようなボランティア任せにされているが、行政府が責任を持って行う戦後処理事業へと転換する必要がある。
県有地化の原資を県予算ではなくふるさと納税にするのも、全国の人に戦跡保存に関わって貰うと共に、国が戦没者のご遺骨が含まれた土砂で基地を作るという非人道的なことをしていると気づいて貰うための工夫だ。戦没者の尊厳を守り、沖縄戦の記憶を継承する為のふるさと納税の呼びかけは、新たな全国的運動のうねりを呼ぶことが出来るかも知れない。全国の沖縄戦遺族にも協力を募ることで、沖縄戦遺族の思いを可視化することにも繋がるはずだ。
とはいえ、沖縄県内の鉱山開発業者の側からすれば、県有地化は業者の経済的利益を追求する権利を妨げることになる。SNS上には「沖縄でのあらゆる開発を止める気か」「既にこれだけ開発されているのに、今更何を言うのか」といった批判も一定数存在する。沖縄県も、県内業者の私権を制限することには及び腰になるのではないか。そんな疑問を具志堅さんにぶつけてみた。
具志堅さんは「未開発緑地帯を守りたいと言うのは(まだ)少数派」だと認めた上で、「少数派でも声を上げる権利はある」と語気を強めた。既にされた開発は仕方がない。しかし、未開発緑地帯がどんどん失われていく中で、その新たな価値に気づき、それをスタートに「新たな開発はやめよう」と声を上げていくのが肝要だという。「気づいたときがスタート」という具志堅さんの言葉に胸を押された。6月22日のフィールドワークに出る前、具志堅さんが報道陣を前に語った「経済的利益のために戦没者を忘却の彼方に売り飛ばしてはいけない」との言葉。それは、全国の人々に、「人として大切にすべきものは何か?」と問いかけているように思う。