抑止力への傾斜と後手に回る緊張緩和
それから3年あまりが経ち、ロシアによるウクライナ侵攻に伴って台湾有事が声高に語られるようになり、自衛隊の南西シフトも急速に進む。中国の著しい軍事力拡大を考えれば軍事バランスを維持することも必要だろうが、抑止力強化一辺倒で本当に地域の安定がもたらされるのか。対話と外交の必要性も指摘されるが、抑止力議論と比べると後手に回っている感は否めない。
今月8日には台湾を訪問中の麻生太郎自民党副総裁が抑止力の重要性を強調する文脈で「金をかけて防衛力をもっているだけではだめ。いざとなったら使う」と「戦う覚悟」を強調したが、意図せぬ誤解や行き違いで戦争になってしまったら何が起きるのか。戦争の現実を究極の形で経験したのが沖縄、広島、長崎である。
沖縄県は緊張緩和に向けた取り組みとして地域外交室を設け、玉城知事も今年7月の訪中を皮切りに近隣諸国への訪問を進めるという。しかし、中国をはじめ相手国との間合いの取り方には細心の注意も求められる。重要な試みだが、沖縄県だけでどこまで影響力を持つことができるかという課題もある。
「沖縄=広島=長崎」イニシアチブの可能性
戦争の記憶の継承で手を携える機運もある沖縄、広島、長崎だが、それに加えてアジア/アジア太平洋の緊張緩和という眼前の課題についても連携することができれば、対外的にも大きなインパクトがあるだろう。広島などには対外発信で培ってきた分厚いノウハウやネットワークの蓄積もある。
もちろん、広島、長崎と相手のあることだが、「沖縄との連携にはこれまでの視座を大きく広げる可能性を感じる」(吉川元広島平和研究所前所長)と語る関係者もいる。また、この種の連携は自治体そのものに加え、「国内版トラック2」(政府間の外交をトラック1というのに対して、有識者などによるものをトラック2という)も重要になる。
広島には広島平和研究所、長崎には長崎大学核兵器廃絶研究センターや長崎平和研究所(長崎総合科学大学)などがあり、沖縄でのカウンターパートを考える必要があるが、それも工夫次第だろう。
今年6月には日本ジャーナリスト会議主催で「“新たな戦前”にジャーナリズムはどう対峙するのか~広島、長崎、沖縄からの問いかけ」と題したシンポジウムが開催されたが、そのようなメディアの取り組みも重要になる。