報道機関でのヒアリング
調査・研究を始めたきっかけになったのは、東京MXテレビが2017年1月に放送した『ニュース女子 #91』だった。「沖縄ヘイト」言説の典型例として議論を呼んできた同番組をゼミ生全員で視聴し、その内容分析を行った。そして、なぜ沖縄に対する「デマ」や「誹謗中傷」というべき内容を含んだ番組が放送されることになったのか、またこの番組をはじめとする「沖縄ヘイト」がなぜ近年になって急速に広がっているのかを明らかにすることを調査・研究の目的とした。
「沖縄」や「基地問題」について、報道機関の人達にこれだけまとめて話を聞く機会というのは、新聞学科に所属する学生達にとっても滅多にない貴重な体験であった。学生達は関連番組の視聴だけでなく、事前に書籍や論文を出来る限り読み込んで沖縄入りした。しかし、やはり現場の一線で働くジャーナリスト達の話はとても新鮮かつ説得力のあるものであった。
沖縄の経済が基地なしでは成り立たない(=「基地経済」)という認識は正しくないこと、米軍基地の存在について沖縄の人びとの世論は簡単に「賛成・反対」に二元化できるものではないということ、在日米軍基地・関連施設の7割以上が沖縄に集中する現状は戦後ずっと続いてきたというわけではないこと、『ニュース女子』だけでなく多くの本土メディアによる報道が、そうした沖縄の複雑な状況や問題を単純化したり、表面的にしか扱っていないケースが多いということ。話を聞けば聞くほど問題の難しさに気づかされ、それまでの認識を改めさせられていくということの繰り返しであった。
一連のヒアリングを終えて、私は授業があるためにひと足早く東京に戻ったが、ゼミ生達は残って辺野古の新基地建設反対運動の現場を訪れた。当日は台風直後だったこともあり、座り込みの人達は普段よりも少なめだったが、それでも反対派の人達が機動隊と対峙する様子はゼミ生達に強烈な印象を残したようだった。
ある女子学生は、この時の模様について次のように書き綴っている。
「機動隊が足並みを揃え、列をなして向かってくる。これがテレビの報道で見ていた反対運動の参加者と機動隊の衝突だと、やっと実感が湧いてきた。この場をどくように指示をする機動隊員と、それに断固抵抗する人々。」
「…衝突は激しさを増す。声を大きく張り上げて訴える人々を前に、機動隊員は彼らの両手両足をそれぞれ4人で掴み、力ずくで運んでいく。次から次へと排除されていく。無理やり持ち上げられた人々は、何の抵抗もできない。その様子を見て、一気に涙が溢れて止まらなくなってしまった。辛かった。理由を聞かれても、なぜだか答えられなかった。前もってテレビで見ていた光景のはずだったのに。映像とはまるで違った。耐えられなかった。でも、この光景を目に焼きつけなければ、と思った。」(米倉ゼミナール「ゼミ生ブログ=http://blog.livedoor.jp/yonesemi/」から)