読み進めていくうちに、あれ?と思った。
登場人物はほとんどが埼玉の公立中学校という場にいる。「僕」という主人公の大学生は、「高栄」という地名から「高江」を連想できる程度にしか沖縄を知らない。沖縄の存在が今ひとつ薄いようなのだが、これでいいのだろうか。確か、この作品は新沖縄文学賞の受賞作だったはずだが・・・。本書の説明書きをあらためてみると、なるほど、本作「Summer Vacation(サマー・バケーション)」は間違いなく、2017年11月の選考会で第43回新沖縄文学賞(沖縄タイムス社主催)に選ばれた儀保佑輔さんの作品である。
しかし、読み進めていくうちに、沖縄か、沖縄以外かという地理的な区分けが意味を持たないことに気付いた。物理的な境界を無力化するインターネット上のバーチャル空間が本作では重要な意味を持つのである。
コンピューターゲームをプレイしながら、実況中継のような解説を加え、その動画をネット上にアップする「実況動画」というバーチャル空間が本作の舞台である。本作の題名「Summer Vacation」がゲームの名前だ。この「サマバケ」には米軍基地に反対するキャラクターが登場し、その実況動画というバーチャルな空間は基地反対に反発するコメントで満たされていく。さらにそこへリアルな友人たちとおぼしき人影が参入してくるという筋書きだ。仮想か現実か判然としないネットという世界で匿名のアクターがコメントを打ち込んでいくわけだから、発信源は沖縄であってもなくてもいい。
しかし、だれもが勝手放題に書き込んでいるわけではない。「宗人」の実況動画で受け入れられるのは基地反対派を揶揄し続ける流れに棹さすものだけだ。「宗人」が長考の末に基地反対派に味方する選択を行うと、案の定、反感や怒り、戸惑いのコメントがあふれ出す結果となる。