アジア視野に動き出した沖縄県産本

この記事の執筆者

新しい魅力を伝えるツール

 

那覇市の国際通りに近い第一牧志公設市場の前にある「市場の古本屋 ウララ」という小さな古書店に、外国語の翻訳本を持って台湾からやってくる観光客がいるそうだ。店主の宇田智子さんがボーダーインクから2013年に出した「那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々」の翻訳本だ。宇田さんのこの本は、韓国で2015年、台湾では2016年に相次いで翻訳出版されている。

沖縄県によると、2017年に来県した観光客は過去最多の939万6200人。このうち、海外からの観光客は254万2200人となり、沖縄に来る観光客の4人に1人以上を占めている。このなかで、最も多いのが台湾の78万7000人で前年比29・6%増。続く韓国は52万3300で前年を21・3%上回った。

台湾に関して言えば、沖縄は定番の海外旅行先としてすっかり定着してしまい、美しい海とかおいしい食べ物とかいう楽しみ方だけではない「何か」が求められるようになっている。宇田さんの翻訳本は台湾の本好きたちに、沖縄が持つ新しい魅力を伝えるツールになったということだろう。

台湾において書籍が特別に影響力を持っているとは思わない。列車やバスの中ではスマホの画面にくぎ付けになっている人が圧倒的に多数派で、紙の活字を目で追っている人は日本同様に少なくなってきている。ただ、本に関する風景としては日本と台湾の間に違いがあることは確かだ。台湾では、書店によってはベンチが用意してある場合があり、客たちはそこに座って気になる本を読むことができるようになっている。「立ち読み」ならぬ「座り読みだ」。新書発表会の類も頻繁に開かれ、著者が読者に直接対話する光景が見られる。

この記事の執筆者