アジア視野に動き出した沖縄県産本

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沖縄への「間口」を広く

 

台湾における本の風景を象徴するのは年1回開催の台北国際ブックフェアである。国際的な本の展示会として最大規模を誇るイベントのひとつ。ことしは2月6~11日に開かれ、60か国計684社が参加した。沖縄にとってエポックメーキングだったのは、沖縄県内の出版社など20社余りでつくる沖縄県産本ネットワークが初めてブースを設けたことである。

県内の出版社は近年、東京など国内のほか、台湾、韓国、中国の出版や翻訳の関係者との間で人脈を築く試みを行っており、沖縄の県産本を東アジア向けにPRするためのリストを作成して2016年11月に50冊をピックアップしている。2017年6月からは、沖縄時事出版が県文化振興会の支援で「県産本を中心とした東アジアへの情報発信」事業を行い、県内の出版関係者が台湾、中国、韓国などに足を運んで翻訳事業の可能性を探るとともに、沖縄で開催のワークショップに招へいして海外展開に向けたアドバイスを受けてきた。

県産本ネットワークは同ブックフェアに向けて、あらためて県産本30冊のリストを作成している。たとえば、料理に関する本としてジャンル分けされた4冊(伊是名カエ「okinawa soup」東洋企画、はやかわゆきこ「おうちでうちなーごはん」ボーダーインク、徳元佳代子「徳元佳代子のやさしいやさい」琉球新報社、安次富順子「琉球菓子」沖縄タイムス社)は、いずれも2016年のリストにはなかったもので、どちらかといえば手に取りやすい本を入れることで、沖縄への「間口」を広く取ったと考えることができるだろう。

同ブックフェアについては当初、見学するだけにとどめることになっていた。その理由について、呉屋栄治編集部長は「日本の一地域でしかない沖縄が参加したとしても、埋没するだけ」(2018年2月22日付「琉球新報」への寄稿)と説明している。これが参加に転じたのは、各国の出版人から勧められたという点が大きい。ブックフェアに参加すれば、人脈が築けるし、翻訳出版に関する実務について知識を蓄えることもできる。台湾側のニーズも把握できたようだ。編集者・ライターの宮城一春氏は「台湾と沖縄の共通点を台湾の読者にとどけたいと考えていること。さらには、沖縄の文化や歴史・民俗・料理・工芸など、幅広い分野で、特長のある本を求めていることなど」(2018年3月8日付「沖縄タイムス」への寄稿)としており、市場調査を行うことができたという一点だけでもブックフェアの参加には意義があったと言えるだろう。

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