小学校上空の米軍機飛行はなぜ止められないのか

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国内法よりも地位協定を優先

 

「葬儀は悲痛の涙であふれ、痛ましく、私自身が申し訳ない思いでいっぱいだった」

3月20日の衆院安全保障委員会。井上氏は沖縄防衛局長として対応に当たった16年の元米海兵隊員の軍属による女性暴行殺人事件に言及し、河野太郎外相にこう訴えた。

「地位協定改定にぜひ一緒に取り組んでもらいたい」

沖縄赴任前、地位協定は運用改善で対応する、との政府のスタンスに疑問を感じなかったという井上氏が、「改定」の必要性を唱えるようになったのは、沖縄防衛局のある嘉手納町で暮らした経験が大きい。

米空軍嘉手納基地などを抱える同町は、町面積の8割強を米軍基地で占められている。16年の女性暴行殺人事件から間もなく、行きつけの町内のおでん屋で、復帰前の沖縄を知る地元の常連客と顔を合わせた。日米同盟の意義に理解を示す「基地容認派」だが、このときは厳しい口調で訴え、井上氏に地位協定改定を求めたという。

「こういう事件が起きると、米軍に占領され事件・事故が頻発した当時の苦い思い出がよみがえってくるんですよ」

米軍統治下の沖縄では、結婚を控えた女性が米軍人に暴行され、被害申告できないまま、結婚後に肌の色の違う子が生まれてくる、といったこともあった。当時は、基地内に逃げ込まれれば米軍人を訴追できない、との諦念が県民にあったからだ。復帰後も、日米地位協定がネックとなる米軍関係者の事件事故が起きるたび、こうした悲劇や不条理を想起する県民は少なくない。

日本と同じ「敗戦国」のドイツ、イタリアが米国と結ぶ地位協定は、いずれも米軍の活動に国内法を適用し、両国とも米軍の訓練に事前申請を課して飛行を制限するなど、日本とは大きく異なるのが実情だ。

井上氏は、5月に政府に提出した質問主意書で、米軍の海外駐留に関する米政府諮問の委員会による報告書が「当該国の法令が適用されるのが、一般的に受け入れられている国際法の原則」とし、「駐留軍地位協定は、この原則に関する合意された例外を規定するもの」と明記している点を指摘した。しかし、国内法よりも地位協定を優先させる外務省のスタンスは覆らない。

日本政府はなぜ、日米地位協定改定に動かないのか。

関係省庁が多岐にわたる協定改定は、政府挙げて取り組む内閣の覚悟が不可欠となる。しかし、協定改定を声高に訴えているのは、沖縄をはじめ米軍基地を多く抱える一部自治体に限られ、政治を動かすインセンティブが働かないのが現実だ。

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