「日本政府は守ってくれない」
普天間第二小への窓落下事故の6日前、もう一つの「落下事件」が起きていた。普天間飛行場から約300メートル離れた「緑ヶ丘保育園」で、円筒形の物体が屋根に落ちているのを職員が見つけた。落下物は高さ9・5センチ、直径7・5センチ、厚さ8ミリ、重さ213グラム。「ドン」という衝撃音に職員らが驚いた。米軍はこの物体が米軍ヘリの部品であることを認めたものの、飛行中の機体から落下した可能性は「低い」と説明。その後、園には「自作自演」「クソサヨク」などと誹謗中傷する電話やメールが相次ぐようになった。
神谷武宏園長(56)はこう訴える。
「米軍機の落下物が私たちの保育園にも落ちたのは事実です。米軍が認めないだけで、置かれた条件は第二小と同じなんですよ」
同園は宜野湾署に「事故」調査の進捗を随時、問い合わせている。しかし、返ってくるのは「米軍の協力が得られない」との回答ばかり。神谷園長の嘆きは深い。
「米軍機が今も保育園の上空を飛ぶのは、私たちの人権が軽視されているのと同じ。これを許しちゃいけない、と声を上げているのですが、沖縄だけの問題として扱われ、日本の問題にならないのが歯がゆい」
同園の保護者有志は、園上空の飛行禁止を求める12万筆超の署名(現在約13万7千筆)を集め、2月に政府に提出した。その際、外務・防衛官僚らとやりとりした保護者の一人、知念有希子さんはこう言う。
「日本政府としてどう動いているのか尋ねても、『米側の回答待ち』という答えしか返ってきません。日本政府は私たちを守ってくれないんだ、と失望しました」
日本政府はなぜ、国内で訓練する米軍の運用改善を主導できないのか。
「米軍ヘリが普天間第二小学校上空を飛ばないようにすることは、主権国家であれば本来当然のこと」
こう話すのは元防衛官僚の井上一徳衆院議員(希望)だ。2014~16年まで沖縄防衛局長を務めた井上氏は、普天間第二小学校に監視員を常駐させている同局の対応についてこう解説する。
「米軍から普天間第二小学校の上空は絶対に飛ばない、という確約が得られないため、沖縄防衛局は監視を続けざるを得ないのだと思います。日米間の信頼が損なわれたままになっているのは非常に残念」
学校上空を「最大限可能な限り飛ばない」との合意が早々に破られたことが、防衛省の不信の背景にある。米軍に約束を守らせられない主な要因は、日米地位協定にある。協定は、米軍関係者が日本の法令を「尊重する義務がある」と規定している。だが「尊重」しても、実際に「適用」されるとは限らない。航空法は低空飛行や物の投下などを禁じているが、日本政府は米軍機を特例として対象外にしている。米軍の運用に関してはほかにも、同協定に基づく日米合同委員会が非公開の協議を重ね、米側の裁量に最大限委ねる形で合意してきたのが実情である。