沖縄県知事選から見る日本政治

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反対派もまた国民である

 

―沖縄が浮き彫りにする安倍政権の姿とは

宮城 安倍首相は、就任から9日後には玉城新知事と面会しましたが、その際、安倍首相は翁長知事に対しては菅官房長官を含めて当選後も面会せず、冷遇を徹底したことについて、「元々自民党にいた翁長前知事が向こう側にいったという意味では、非常にもやもやがあった」と述べたそうです。

翁長前知事は、すでに過重な基地負担を背負う沖縄に、これ以上新たな基地建設は認められないとして、「イデオロギーよりアイデンティティ」を掲げて当選したわけですが、それを「向こう側にいった」という観点でしか捉えられないことに、安倍首相の限界を改めて感じます。6年も首相の座にありながら、なぜ沖縄からそのような声が出てきたのかという観点、そして「反対派もまた国民である」という為政者に不可欠の視座を一片たりとも身につけることができないのでしょうか。

そして玉城知事との面会から5日後には、沖縄防衛局が県による埋め立て承認撤回の取り消しと執行停止を国土交通相に申し立てました。行政不服審査法による不服審査請求は、国民の権利、利益の救済を図ることが目的で、行政機関同士の争いを想定したものではありません。沖縄県が2015年に埋め立て承認を取り消した際にも、防衛省は「私人」の立場で不服審査請求をしましたが、これには行政法の専門家からも強い批判が出ました。ところが、お構いなしに今回も同じことを繰り返そうとしています。

安倍首相は海外では中国を念頭に、「法の支配」や民主主義の重要性を盛んに説いていますが、それを言うならば、まずは足元の国内で実践してもらいたいものです。

そのように強引に工事を再開したとしても、いずれ設計変更にともなう知事の承認が必要になるので、そこでまた止まってしまうことになります。結局、地元の知事と全面的に対立して工事を進めようとしていること自体が、そもそも無理な話なのです。

 

ー「辺野古が唯一」をめぐる矛盾について

宮城 安倍首相や菅官房長官などは、ことある毎に「辺野古が唯一の解決策」と言いますが、マスコミにはそれが本当に「唯一の解決策」なのか、きちんと検証し、議論してもらいたいと思います。そうした作業なしに漫然と政府首脳の発言をそのまま記事にするのでは、ジャーナリズムとはいえないのではないでしょうか。そもそも政策に「最善」はあったとしても、「唯一」などあり得ません。きちんとした批判と検証のないことが、このようないい加減な言葉の流布を許しているのです。

辺野古新基地の建設費は1兆円と言われています。日本側の負担です。仮にこの先、日朝国交正常化が実現すれば、そこでも日本側が実施しなくてはならない経済協力が1兆円規模と言われます。そしてアメリカから導入が検討されているミサイル防衛でも巨額の支出が見込まれています。果たして、そのような財源がこの国にあるのでしょうか。

そんな莫大な費用をかけず、自然環境を含めて沖縄にも新たな負担にならず、基地の機能はそれなりに維持できる、そういう策は技術的に十分可能なはずです。海兵隊の運用や自衛隊基地の共同使用など、専門家はいろいろな議論をしています。

まして、安倍首相が約束した「普天間基地の五年以内の運用停止」という約束の期限は、来年です。「普天間基地の速やかな危険除去が最優先課題」だと言うのであれば、その答えがこの先、10年、20年とかかる辺野古新基地の建設であるはずがありません。

あまり理解されていませんが、辺野古での埋め立てを許可した、翁長氏の前の仲井真弘多知事も、県外移設を念頭に、辺野古新基地について「みんな間違って考えていると僕は思っていましたよ。本当はもっとやりやすい場所があるはず。腰を据えて取り組めば、すぐ解決できる。米国の政治家も本気になってくれれば、簡単な話だとね」と回顧しています(『沖縄を売った男』)。

翁長知事の時には、官邸や与党が対話を拒否しただけでなく、国政野党も鳩山政権時代のこともあって、辺野古の問題について「見て見ぬ振り」という状況でした。そのなかで、翁長さんが孤軍奮闘せざるをえなかったわけです。

これに対して今回当選した玉城さんは自由党ですし、立憲民主党も今度の選挙を機に新基地反対を明確にしました。また自民党の石破さんも総裁選で「沖縄の理解を得られるようにしなければならない」と述べています。これまでとは状況が変わりつつあるかもしれません。

「唯一の解決策」という言葉は同じでも、以前はもっともらしく聞こえていたのが、状況によっては、「無理筋を言っている」と聞こえるようになる。「辺野古以外の選択肢」では言葉が弱いと思います。「辺野古なし」を前提に議論を始めることによって、いろいろと展望が開けて来るでしょう。それは柔軟な発想に基づいて議論の幅を広げる意味で、これからの日本外交にとってもプラスになることだと思います。

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