県民投票「無視」でも安倍政権が背負う重荷

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 技術的に実現が極めて困難な工事

 

設計変更の必要性は、大浦湾側の埋め立て予定海域で地盤の強度を示す「N値」がゼロの「マヨネーズ並み」の軟弱地盤の存在が浮上した時点で指摘されていた。これが明らかになる契機となった、沖縄防衛局の1416年の海底掘削調査に基づく地質調査報告書を昨年3月に情報公開請求で入手した元土木技術者の北上田毅氏は言う。

「これまでに判明した軟弱地盤に関する情報から判断すれば、辺野古に新基地を建設するのは不可能としか言いようがありません」 

昨年3月に公開した報告書を踏まえ、国は追加調査を実施し、対応策を検討した。その結果、驚愕の事実が次々浮かんでいるのだ。

一つは、大浦湾の護岸予定地付近で確認された軟弱地盤の深さだ。追加調査の結果、前回調査よりさらに20㍍深い、水面下最大90(水深30㍍、地盤60)に達することが判明した。

もう一つは、軟弱地盤の範囲だ。大浦湾の外側に面した岸壁となる護岸部分だけでなく、湾の内側の埋め立て部分でも水面下8085メートルの軟弱地盤が広がっていることがわかった。このため、大浦湾の埋め立て区域の半分に相当する57ヘクタールという広範なエリアで地盤改良が必要となり、計約77千本の砂杭を打ち込む予定であることが明らかになった。

県は追加調査結果が判明する前の段階で、工費が約25500億円、工期が13年以上に及ぶとの独自試算を発表した。政府はこれを「根拠がない」と一蹴する一方、当初の資金計画書で2400億円としていた総工費の明示は困難としている。北上田氏は言う。 

「公共工事は費用や工期を示し、有権者のチェックを受けながら進めるのが本来の姿。工期も費用も示すことができない公共事業なんてありえない」

 国が工期やコストを明示できないのには理由がある。前例のない工事だからだ。

215日に国会内で開かれた野党合同ヒアリングで、水面下最大90㍍の軟弱地盤の改良工事が海外でも実績がないことが明らかになった。防衛省の担当者は軟弱地盤に砂杭を打ち込む「サンドコンパクションパイル工法」の実施例について「国内では65㍍、海外においては70㍍」と説明した。

 同工法で対応可能な作業船は国内に15隻。このうち水面下70㍍まで作業できるのは2隻で、それより深い水域で対応できる作業船は存在しない。北上田氏は言う。

 「何としても工事を進めたい国は、環境への影響も考慮せず無尽蔵にお金をかけて新しい工法を開発したり、90㍍まで作業可能な船を造ったりするかもしれません。そもそも普天間飛行場の代替としても中途半端でしかない新基地建設のために、前例のない難工事になぜここまで固執するのか理解に苦しみます」

 滑走路が1800㍍の辺野古新基地は、2700㍍の滑走路をもつ普天間飛行場の代替施設たりえず、仮に完成したとしても緊急時には那覇空港など「民間施設」の使用を米側は求めている。17年には当時の稲田朋美防衛相が「民間施設」について「米側と調整が整わなければ普天間は返還されない」と国会で答弁し、沖縄県側が強く反発した経緯もある。

こうした中、県民投票で反対が多数を占めればどうなるのか。

 「技術的に実現が極めて困難なのに加えて、圧倒的な県民の意思が示されれば、ますます中止を迫る大きな要因になるでしょう。知事が設計変更を不承認とする事態にならないよう、県民があきらめる状況に追い込むのが、国が取り得る唯一の手法になっています」(北上田氏)

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