石垣市自治基本条例の廃止議案をめぐる法的問題点

この記事の執筆者

議案提案者の提案理由

次に驚いたのは、自治基本条例廃止の議案提案者が、提案理由として、市の職員に聞いたらほとんどが自治基本条例は不要だと回答したからと述べていたことだ。

しかし、法律(条例)を制定・改廃する場合、その基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実は、社会的または科学的事実の分析が行われているのかということが必要である。

これを「立法事実」というが、議案提案者は、少なくとも、市の職員何名に、どのような質問の形式で、どのような回答がなされたのかを科学的かつ客観的に示す必要がある。

昭和50年4月30日の最高裁判所における薬事法による薬局開設の距離制限に関する判決では、「競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。」と述べている。

つまり、その人の主観的な話だけではだめで、客観的な根拠に基づいたものが必要だということである。このように、適切な法律(条例)を策定・改廃していくためにはそのプロセスにおいて立法事実を明確にしなければならないという要請が働くのにもかかわらず提案者はそれさえも無視している。

立法事実は細部に亘って、適切に検証されておくことが重要であり、法律(条例)を支えるものでなければならない以上、合理的な根拠を科学的かつ客観的に示す必要がある。その点、自治基本条例43条はそのような観点からのプロセスがきちんと明記されている。

それは、1項の市民の意見を踏まえること、そして2項の市長は審議会を設置し、諮問することである。提案議員と賛同議員及び市当局は市民の意見を踏まえる義務を怠り、市長は審議会を設置し、諮問する義務を怠った。これは民主主義及び法の支配に反する重大な問題である。

議案提案者の提案理由

また、自治基本条例の廃止条例の提案者は、提案理由として、石垣市自治基本条例第2条の用語の定義に「議会」の記載がなく憲法違反の欠陥条例だからということを述べた。しかし憲法第93条は、「法律により議事機関として議会を設置する」と定め、地方自治法第89条は「地方公共団体に議会を置く」と明記されている。

 さらに、石垣市自治基本条例第9条は、「市議会の責務」として「市議会は市の議事機関として、開かれた議会運営を図ることにより市民の意思を反映し、市民福祉の増進に務めなければならない」と定義規定を置く。

 同自治基本条例の2条が「市長」の定義を定めていないのと同じように、議会という用語の定義が憲法及び地方自治法により明確なものをわざわざ条例に定義して記載する必要性はない。用語の定義に議会を明記しないことが違憲だという議案提案者の主張には耳を疑う。

 なお、議員の廃止条例の提案に先立って自治基本条例を調査・研究を名目とした議員からなる調査特別委員会が、自治基本条例の「市民」に外国人を含めていること理由に「廃止すべし」との結論を出し、本会議に報告していた。しかし、地方自治法10条は、外国人を含め、地域に住所を有する者をすべて住民としている。したがって、住民登録の有無や国籍を根拠に住民(市民)の定義から除外することは差別を容認する排外主義の動きとして許されない。しかも、自治基本条例で定める住民投票の請求は有権者に限っており、自治基本条例を廃止する立法事実とは到底なり得ないことは明白なのである。

この記事の執筆者