石垣市自治基本条例の廃止議案をめぐる法的問題点

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議会与党の新方針に関して

報道によると、石垣市の与党議員は、年明けの3月議会に自治基本条例の廃止ではなく、改正にかじを切り、住民投票請求に関しては「議会議決」の必要性の明記及び県・国の政策に関する事項を実施対象から除外するという。しかし、署名要件はそのままに、議会議決が必要だと自治基本条例を改正した場合,本来地方自治法74条に基づき住民投票条例を制定するためには有権者の50分の1の署名で足りるものが、4分の1以上の署名を要することになる。

これは明らかに、憲法の基本的原理とする「基本的人権」の保障や、「公共の福祉」の要請に反し、地方自治法74条の趣旨・目的にも反するもので、憲法94条「地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる。」との規定及び地方自治法14条1項「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。」との規定に反する。

翻って、現行の石垣市自治基本条例28条4項の「市長は,第1項の規定による請求があったときは,所定の手続を経て,住民投票を実施しなければならない」の「所定の手続き」が議会の議決という市の主張は、憲法92条に違反する解釈であることも明白である。つまり有権者の3分の1以上の署名を集めて請求した平得大俣への陸上自衛隊配備計画への賛否を問う住民投票を市長が実施しないことは明白に「違法」であり「違憲」なのである。

なお、自治基本条例28条1項が地方自治法74条の条例制定請求の要件である50分の1以上の署名から4分の1以上の署名に要件を加重していることも同様に「法律の範囲内」とする憲法及び地方自治法に反するのではないかという反論が想定されるが、自治基本条例28条4項の市長に実施義務が生じる4分の1以上の署名を満たさなくても、地方自治法74条の条例制定請求として50分の1以上の署名要件を満たしている以上、議会に付議されるのである。

したがって、なんら憲法・地方自治法の規定に反しないどころか、石垣市自治基本条例28条は住民自治の理念に適い、地方自治を充実させる牽引力の役割を担う、憲法上歓迎されるべき積極的意義をもつ(石垣市自治基本条例28条1項及び4項の説明及び解釈については、拙稿https://okiron.net/archives/1362https://okiron.net/archives/1426を参照されたい)。

なお、住民投票の対象に除外規定を設ける方針について、日米安保の可否など安全保障全体に関わることなど国民全体で決定すべきものならともかく、何を国策とするのか定義を定めないまま抽象的な除外規定を定めるなら、それも問題だ。例えば、辺野古の県民投票での「辺野古の埋め立ては国策だから住民投票にそぐわない」ということになってしまう。秋田市がイージス・アシュア配備に対して声を上げ、国は、地元理解が困難という理由で見直しを表明したように、国策だからと強行するのは民主主義と言えない。ナショナルレベルの社会とローカルレベルの社会とは抱えている問題の種類も性質も違って然るべきである。問題が違う以上、憲法上も、地方自治体は国に対して地元として意思を表明する権利を保障しているのだ。

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