<対談・松原耕二×佐古忠彦>もう一度、沖縄と向き合う【中】

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「議論する前提の事実」の共有が崩れつつある危うさ

松原 都内の大学でテレビジャーナリズムをこの2年間、教えていたんですが、そこで学生たちに「ニュース女子」の沖縄基地特集(*)の感想を聞いたら、こんな意見があったんです。
「ネットとかで見てて、そうなんだなって思っていたことが、番組を観てやっぱり事実だったんだってわかりました」と。それが一人、二人じゃなかった。結構な数の学生がそんな感想を持っていて、ショックを受けました。
それから沖縄の話をみんなで議論したとき、ある学生がこう言ったんです。
「沖縄ももう少し沖縄のことばかりじゃなくて、日本全国のことを考えて行動するべきだと思います。今はあまりに自分たちのことしか考えていないと思います」と。
なるほどそういう風景にも見えるんだと思って。自分が学生のときにどれだけ沖縄のことを知っていたかと言えば、恥ずかしい限りだけど。上の世代もそうなのに、次世代はさらに距離があるんだ、という現実に触れて、暗澹たる気持ちになったんですけどね。

佐古 いろんな意見があっていいと思うんだけど、議論すべき前提の事実の認識みたいなものが、共通の認識を持てないままになっている面はありますね。そこがやっぱり一番不健全ですよね。

松原 しかもそこで、「ヘイト」や「フェイク・ニュース」みたいなものが大量にネットに流れると、基本的な事実すら本当だろうかということになっちゃう。関連で言うと、試写会で最近みた「否定と肯定」(12月8日~全国ロードショー)という映画が示唆に富んでいました。ホロコーストはなかったという歴史修正主義の学者と法廷で対決するストーリーなんですが、印象に残ったのは、歴史的事実すら、あったという人となかったという人が出てくれば、両論併記にされ得るということ。それがホロコーストはなかったと主張する人の狙いなんだ、というセリフも映画の中に出てきて、なるほどと。ものすごく今につながるなと思ったんです。
今の沖縄の問題も、米軍基地が集中しているのは揺るがない事実なのに、米軍基地の占める比率をめぐって別の数字を挙げる人もいますね。そうすると、「過重負担ではないという意見もある」みたいな両論併記になる恐れがある。さらに基地に反対している人は日当をもらっている活動家だという根拠のない言説も、いつのまにか、日当をもらっているという主張もあれば、もらってないという主張もあるという両論併記にすり替えられる。そうすると状況を知らない人たちは、どっちが本当なのかわからなくなってしまう。
これも共有すべき前提条件が揺らぎつつある例だと思います。歴史認識を変えさせようと思っている人たちと、「沖縄ヘイト」には重なる部分があるんじゃないか。これはものすごく怖いことだと思うんです。そういう中で、我々が一致して沖縄をテーマに語り、沖縄とかかわろうとしているのは何なんだろう。
【10月31日、TBS社内にて収録。文責・渡辺豪、(下)に続く】
(*)「ニュース女子」の沖縄基地特集…東京のローカル局「東京メトロポリタンテレビジョン」(MXテレビ)が2017年1月2日に放送した番組「ニュース女子」で沖縄の米軍基地問題を特集。反対運動参加者を「テロリストみたい」などと揶揄する内容が流された。番組内容に批判が上がり、放送倫理・番組向上機構(BPO)の審議対象になった。


【略歴】マツバラコウジ
1960年山口県生まれ 早稲田大学政経学部卒、1984年TBS入社、現在BS-TBS「週刊報道LIFE」メインキャスター。ドキュメンタリー『フェンス~分断された島・沖縄』で放送文化基金優秀賞。著書に『反骨~翁長家三代と沖縄のいま』など。小説も執筆。


 

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