参院選 中村之菊候補の戦い

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参院選で「沖縄の米軍基地を東京へ引き取る」ことを公約に掲げた候補がいた。批判も黙殺もものともせず、ひたすら「加害者は本土の私たちだ」と訴え続けた選挙戦。彼女はどんな思いで選挙に臨んだのか。

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「沖縄は基地の中にあると言っていいぐらい、どこもかしこもフェンスだらけ。そういう場所って本土にありますか。この状況を放っておいていいのでしょうか」

6月22日の参院選公示日。「沖縄の米軍基地を東京へ引き取る党」代表として東京選挙区から立候補した中村之菊(なかむら・みどり)さん(42)が第一声の舞台に選んだのは、東京・永田町の首相官邸前だった。目の前には警察官がずらりと立ち並ぶ。足を止めて聞く人もいない。それでもひるむことなく、声を張り上げる中村さんの姿は強く印象に残った。

 選挙期間中は「ひとりフェス」と称し、都内各地でも演説を重ねた。

「沖縄の米軍基地を東京へ引き取るっていう、党名が公約です」

 公示前に中村さんからそう聞いたとき、沖縄の米軍基地を本土で引き取る「基地引き取り運動」の関係者だと思った。この運動は2015年以降、各地で市民グループが立ち上がり、関連書籍も発刊されている。だが、中村さんは今年1月に立候補表明するまでこのグループと接点はなく、あくまで単独で参院選に名乗り出たという。

 中村さんはかつて右翼団体に所属していた。今は千葉県内で農業と木工大工職人の仕事をしている。貯金が350万円あった。規定の得票数に達しなければ供託金300万円を没収されるが、「貯金で何とかなる」と思ったという。だが、SNSなどで立候補を表明すると、全国から「話を聞きたい」と連絡が相次いだ。反原発の市民団体、反基地の思想家、旧知の右翼メンバー……。呼ばれればどこへでも向かった。週の半分は集会に駆け回ることになり、結局、クラウドファンディングで選挙資金を募った。

「右翼がなぜ」と言われれば、「右翼だから」というのが答えだ。 中村さんには沖縄に基地を押し付け続けていることは「日本人としてダサい」という思いがある。

「中国脅威論みたいなもので他国の軍隊をいつまでも沖縄に押し付けているんだけど、沖縄の人たちが脅威に感じているのは米軍なんです。沖縄に通って、そのことを改めて思い知った。知ったからには、私は私の責任を果たしたいだけ。脅威をあおり、勇ましく見えるだけの『愛国』がいかにダサいか。そのことを可視化したい」

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