「軍は住民を守らない」戦後75年と薄れる教訓

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「軍は住民を守らない」という教訓

戦後75年が意味するのは、戦争体験者の激減である。2018年10月1日の総務省データによれば、戦後生まれは人口の83.6%。現在はもっと増えているだろう。戦死ではなく病死で死んだ、数多くの兵士。軍によって意図的に病死させられた、八重山諸島の住民。そう した戦争の記憶が薄れていき、勇ましい抑止論が台頭してくる。それが戦後75年の節目だ。

大田昌秀元沖縄県知事が亡くなる数年前、東京の大学生たちを連れて大田氏の研究所を訪れたことがある。彼は沖縄戦で学徒隊として動員され、敗戦後も、米軍に投降しない日本兵に同行。だが日本兵は、水や食糧を調達してくる大田氏を、スパイだと射殺しようとした。「軍は住民を守らない」は彼の実感である。しかし、沖縄戦の歴史と教訓を語った大田氏に対して、大学生がした質問は「中国の脅威をどう考えるんですか」「日米安保は重要じゃないんですか」だった。

軍が住民を守らないのは、過去の話ではない。国民保護法では、有事に住民を避難させるのは自治体の役割だ。自衛隊配備が進行中の南西諸島で、もしも中国軍との衝突が起きた場合、周囲を海に囲まれた小さな自治体に、その能力や手段はないだろう。

兵士や八重山の住民を殺したのは、マラリアではなく国策である。戦後75年の今年、コロナ感染の中でこそ、歴史の教訓から抑止論を問い直すべきだろう。

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